功績
翌朝、十分な睡眠をとって回復した私は、再び図書室に篭り、計画書の清書をした。実際にこの計画を行う際に気をつけなければならないことがいくつかあるためだ。ちなみに、件の感染症は原因と対処法が発見され、現在治療を行っている最中とのことだ。
「姉様、何か手伝えることある?」
「ありがとう、じゃあ、参考文献をまとめてもらえるかしら?」
「サンコウブンケン…?」
またこの世界にない言葉を使ってしまった。シェルファに参考文献の定義を説明し、作業に入ってもらう。一度説明すればこちらの意図を全て理解してくれるというのが、私がシェルファを天才と呼ぶ所以だ。
「これをまとめておけば、今後また同じようなことが起こった時に調べなおさなくても良くなっていいね!」
「そうでしょう?よかったらシェルファも真似してみてね」
テキパキと作業してくれるシェルファのおかげで、昼頃には全ての清書が終了した。
「ありがとう、助かったわ」
「ううん、姉様のためになることならなんでも手伝うからね!」
初等部を卒業し、来月から中等部に進学するシェルファは、この世界に来た当初の頃からずっと私を支えてくれている大切な弟だ。
書き上がった計画書の完成版は、お父様の手によって陛下の元へ届けられた。この計画は前世の知識を活用した上で、まだこの世界にはない考え方を前提としている。そのため、可能な限り根拠を示し、計画の有用性を証明する必要があるのだ。
お父様たち文官の方々が所属している行政部へ現状報告を受けに行った帰り、王女殿下とばったり出会った。前回のガーデンパーティーからまだ2週間ほどしか経っていないのにも関わらず、随分と久しぶりにお会いしたような気がする。
「最近、忙しそうね。お父様が無茶を頼んでないかしら?」
「臣下として当然のことをしているだけですわ。それに、王女殿下にご心配いただくほど忙しくありません。私が提出した計画書をもとに、文官の方々が関係各所に指示を出しておられますので」
睡眠時間を削るような忙しさは最初の数日だけだった。山場を乗り切った後は、基本的に大人たちが動いてくださっているので私自身はそこまで忙しくないのだ。と言っても、あと3日後にはアカデミー高等部の入学式を控えているので、準備に追われているのだが。
「カートレッタ侯爵もロザリンド伯爵も、いい相手を見つけたものだわ」
王女殿下はぼそっと言ったが、私はいまだにセレン様の隣に立つのが私でいいのか不安に思う。
社交界で容姿のことを揶揄されがちなセレン様だが、努力家で、スイーツ作りが好きという内面を知れば、誰だって彼のことを好ましく思うはずだ。それに比べて私は、貴族令嬢に必要とされる社交性は持ち合わせていないし、何か飛び抜けた才能があるわけでもない。
周りの友人たちはお似合いだと言ってくれるが、私自身はそう思わない。私には、セレン様の隣に立つ実力が足りない。
「ララ!」
王女殿下と別れ、伯爵邸に戻るために馬車に乗ろうとした時、背後から聞き慣れた声で名前を呼ばれた。ふり向いた時にはすでにセレン様の腕の中だった。
「セレン様!こんなに人目の多いところで…」
抗議の視線を送っても、ただ嬉しそうな笑顔を浮かべるだけ。私はこの笑顔にめっぽう弱いのだ。2週間ぶりに会ったセレン様は、少し疲れている様子。本人は隠しているつもりなのかもしれないが、5年以上一緒に過ごしてきた私はすぐにわかった。
「お疲れの様子ですのにどうして王宮に?」
「あれ、聞いていないの?」
セレン様によると、私も参加した緊急招集の会議の後、ルードラさんと一緒に感染症の対策を考えていたそうだ。その結果、異国の文献に似たような症状の病を見つけ、進言したそうだ。まさか、セレン様とルードラさんが発見者だったとは。
「それにしてもセレン様、ルードラさんと協力したとはいえ、よくこんな短期間で発見できましたね…」
「何を言ってるの?ララ、自分の功績の重大さ、わかってる?」
1度話し始めたセレン様は止まらなかった。落ち着いた口調で私がしたことの重大さを説いていく。でも、世界を変える大発見だ、生活が変わるなどと言われても、当の私は実感がない。
「とにかく、ララのおかげで僕たちが原因を見つけられたようなものだし、もっと自分のしたことに誇りを持つように!」
「は、はいっ!…?」
王女殿下とセレン様に出会った関係で、帰宅が予定より1時間ほど遅れた。慌てて晩餐を取り自室に戻ったところで、私は気がついてしまった。高等部の入学式まであと3日しかないというのに、課題が手付かずで残っているということに…
活動報告に皆様へのお詫びがございます。ご確認いただきますようお願いいたします。




