前世の知識の使い方
王宮から帰ってすぐ、普段着に着替えて晩餐をとり、その足で図書室へ向かった。私の案をお父様に説明するまでに調べないといけないことがたくさんあるからだ。
膨大な量の蔵書の中から、必要な本だけを集める。地理学、農学、医学関連の本、そしてベスビアナイト王国の地図。あまりの量に1人では持ちきれないので、シェルファに手伝ってもらった。図書室の机いっぱいに本を広げて、求めている情報を探し出し、メモしていく。
・ゴミの処理は各家庭に任されているが、適切に処理されていないところもあり、汚水が通路に滲み出ている
・フレッドは深く掘れば地下水が出る
・小麦の育成の適温は18〜21℃の乾燥帯
そして、前世の知識も書き加えていく。
・免疫力を高めるためには、良質なタンパク質を摂取する必要がある
・タンパク質が多く含まれているのは、肉、魚、卵、大豆食品、乳製品
・生ゴミを適切に処理すれば、土を堆肥化することができる
メモを持って自室に戻った私は、湯浴みをした後、ソファに腰掛けて解決策を考える。私には病原体の正体を突き止めて、薬を作るような知識と技能はない。私はただ、前世の記憶を持っているだけ。
だから、病原体自体の対処は専門家に任せ、感染が落ち着いた後、もしくはこれ以上拡大させないための策を考える。
考えをまとめ、紙に書き記して明日お父様に説明できるようにしてから、部屋の明かりを消した。その時にはすでに、空が白み始めていた。
いつもなら7時間ほど睡眠時間を確保するのだが、なるべく早くお父様に説明しに行きたいという思いからか、2時間で目が覚めてしまった。まだ朝食には早い時間なので、自分で着替えて、適当に髪をリボンで縛る。部屋を出て廊下を急ぎ、お父様の執務室の扉を叩いた。
「お父様、クララベルです」
「ん…?あぁ、入りなさい」
私はお父様に、昨夜考えた計画について話した。寝不足で回らない頭を酷使して説明したので、少し分かりにくかったかもしれない。
「つまり、家庭から出るゴミが原因で環境が汚染されている可能性があるので、調査をするべきだ、ということだな?」
「はい、その通りです。調査の結果、関連が認められた場合の対処がこれです」
昨日の深夜、なんとか書き上げた計画書を差し出した。内容としては、
①庭がある家庭は、庭に穴を掘り、そこに生ゴミを入れる。庭がない家庭は、木箱を作り、その中に土と生ゴミを入れる。
②定期的にかき混ぜ、土を堆肥化する
③その土を畑の土と混ぜ、大豆を育てる
④大豆の加工食品を普及させ、住民の免疫力向上を目指す
というものだ。あくまで素人の考えた案なので、根本的な感染症の解決にはならないし、そもそも上手くいくか分からない。それでも、何もしないよりは改善する可能性があるし、そこまでお金がかかることでもないので、挑戦してみる価値はあると思う。
お父様は計画書をじっくりと読んで、大きなため息をついた。
「何か問題点がありましたか…?」
「いや、違うんだ。クララベル、陛下に謁見を申し込むぞ」
お父様は急いで国王陛下宛の手紙を認め、従者に渡した。昨日と同じように、慌ただしく謁見の準備が進められ、息をつく間も無く王宮へと向かった。
寝不足のせいか、視界がぼんやりとするけれど、少しの辛抱だ。お父様が陛下に進言している間、隣で控えているだけでいいのだから。
今日は昨日の会議室とは違う、陛下の執務室へと通された。ここは側近や王宮勤の文官、武官のみの出入りが許された場所。私なんかが入っていい場所ではない。
「私は外で待っておきますね。お父様、進言はよろしくお願いします」
「何を言っている、ララが入らなければ話が進まないだろう」
背中を押され、強制的に執務室に足を踏み入れることになった。正面に構える大きな執務机には、国王陛下が着席されている。慌ててご挨拶をして、礼を尽くした。
「ロザリンド伯爵令嬢、いや、煩わしいゆえクララベル嬢と呼ばせてもらおうか。何やら面白いことを考えたと聞いたのだが、聞かせてもらえるか?」
まっすぐ私の方を見つめる陛下は、早く聞かせろと伝わってくるほどの圧力を出している。
「は、い…」
先ほどお父様に説明した時と同じように、計画を話していく。お父様の時と違うのは、相手がこの国のトップで、部屋の中に側近を含め5人ほどがいるということだ。声と足が震え、まともに話せているか分からないが、細かいことは計画書を見て貰えばわかるので許して欲しい。
「以上が計画の全容でございます…」
「なるほど、これは確かに伯爵の言う通りだな」
陛下の言葉に私以外の全員が頷いたが、なんの事だか分からない。
「クララベル嬢、この策は素晴らしい。文官の皆に検討してもらった後、実行することになるだろう。詳細は追って連絡するとしよう。今日はご苦労だった」
「はい、失礼致します」
お父様と一緒に執務室を出て、帰りの馬車に乗った。そこで私の意識はぷつりと切れ、気がついた時には自室のベッドに横たわっていた。
今話の中に農業の話などが出てきますが、作者は専門家でもなんでもありません。ご了承ください。




