友人と恋バナ
今話から第2章に突入しました。今後もララとセレン、その他みんなの成長を応援していただけたら嬉しいです!
卒業式の翌日、目を覚ますとすでに太陽が高く昇っていた。いつもなら朝食に間に合うようにヴェラが起こしに来てくれるのに、今日は部屋の中に姿すら見えない。
ネグリジェの上からカーディガンを羽織り、廊下にいるメイドに声をかけた。しばらくして部屋にやってきたヴェラは、よくお眠りだったので起こしませんでしたの、と言いながらテキパキと身支度を整えてくれる。
「先ほど、王女殿下よりお手紙が届きました」
ベスビアナイト王国の王紋付きの手紙には、王女殿下の字でお茶会の誘いが記されていた。初めて王女殿下とお会いした8歳の5月から、何度か茶会などに参加するうちに、親しくお話しする間柄となった。こうして個人的なお茶会に呼ばれることも少なくない。
「お返事を書くから用意してもらえるかしら」
「はい、ただいま」
控えていた侍女が便箋を取りに部屋を出た。
ヴェラに日程を伝え、一緒にドレスを選ぶ。王女殿下とブランカ伯爵令嬢の3人だけという気軽な会らしいので、ガーデンパーティーらしい小花柄のドレスに、前が開いているオーバースカートを重ねて着ることにした。
持ってきてもらった便箋に返事を書いていく。
『喜んで参加させていただきます。お会いできるのを楽しみにしております』
と記し、封筒にロザリンドの封蝋を押したら、王女殿下にお届けするように言いつけた。普通の貴族は王族の方々に直接手紙を出すことなどできないのだけれど、私やブランカ伯爵令嬢は、特に親しいという理由で特別に許されているのだ。ついでに、お茶会に持っていくスイーツを調達するように頼んだ。
こうして、前日の昼頃に手紙が来るという急なお誘いだったが、みんなの協力のおかげで間に合った。
「2人とも、お久しぶりですわ」
「「王女殿下にご挨拶申し上げます」」
ガゼボに現れた王女殿下に向かって、私たち2人は息を合わせて淑女の礼をする。いつもそこまで畏まらなくていいと言われるのだけれど、王女殿下相手に失礼があってはならない。
「先日、アカデミーの卒業式があったわね。卒業、おめでとう」
「ありがとうございます。一時はどうなることかと思いましたが、なんとか無事に卒業できてよかったですわ」
ブランカ伯爵令嬢は勉強が苦手で、危うく留年するところだったのだ。休日に補講を受けたり、レポートを提出したりして、ぎりぎり卒業できたらしい。
「私は高等部へ進学はしませんし、もう婚約も決まっているので卒業さえできればそれでいいのです」
「女性の教養はあまり重視されないですしね…」
王立アカデミーに入学できる年齢が男子は5歳から、女子は9歳からという点からも分かるように、貴族でも、女子への教育は力を入れられることがない。女子に求められるのは勉学ではなく、容姿の美しさや社交スキルの高さだ。だから、家門の名誉のために中等部さえ卒業してしまえば、その後の人生で勉学の出来不出来を問われることはないのだ。
「そんな私に比べてクララベル様はすごいですよね。高等部に進学されるだけではなく、Sクラスに所属されるなんて!」
「本当よね、さすが神童と呼ばれるご令嬢というところかしら」
「王女殿下まで…褒めすぎですわ。私はただ、勉学が嫌いではないだけですから。神童などと呼ばれるような特別な才能は持ち合わせておりませんわ」
そう、私はただ、前世の知識というカードを持っているだけ。勉学の天才というカードは持っていない。むしろ、社交界でみんなから愛される2人の方が羨ましいと思う。
人はないものねだりをする生き物だ。この世界に来て新しい人生を生きていられることが幸せだというのに、さらなる高みを望んでしまう。私なんかにそんな権利はないのに。
「ブランカ伯爵令嬢は卒業後はどうされるのですか?」
「もう、ジニアと呼んでくださいと何度もお伝えしていますのに…」
「ジニア様…?」
にこっと笑ったジニア様は少し表情を曇らせて続ける。
「卒業後は結婚までの4年間、相手のお屋敷で花嫁修行をする予定ですわ」
ジニア様は同じ伯爵位の子息と婚約している。私とセレン様や、王女殿下とグレシャム侯爵子息様のように恋愛的関係にはない。あくまで、親同士が決めた婚約だ。
「もしかしてお相手の方とうまくいっていないの?」
「いえ、決してそういうわけではないのですが…一生を共にする相手だと思うと、もっとお互いを思い会えたらいいのにと思ってしまいますわ」
確か、数年前のお茶会でも同じようなことを言っていた気がする。いまだにジニア様と婚約者様は義務的な関係から脱することができていないらしい。政略的な婚約である以上仕方がないのかもしれないけれど、幸せになるために必要なら関係の改善に力を入れるべきだと思う。何か大きなきっかけがなければ難しいのだろうが。
「クララベル様の愛され術を知りたいですわ!ぜひとも教えてくださいませ!!」
いいこと思いついた!とでもいいたげな顔をしたジニア様は、私の手を取り、まっすぐ視線を合わせてきた。
「愛され術と言われましても…特別何かを意識しているわけではありませんわよ?素直に気持ちを言葉で伝えることくらいでしょうか…」
「なるほど、これはカートレッタ様も苦労なさっていますね…」
「あら、ジニアはよくわかっているわね。もう5年くらい耐えているそうよ、かわいそうに」
最終的にセレン様はえらいという結論になって、お茶会は終了した。一体なんのことやら分からないので、今度本人に聞いてみよう。




