第1章完結記念SS 【バレンタイン】
今日は2月14日。そう、バレンタインデー。前世で恋人はおろか、友達でさえ満足にいなかった私にとって、馴染みのないイベントだ。そんな私が今、伯爵邸のキッチンに立っているのはなんの奇跡だろうか。
「お嬢様、本当にこれを入れるのですか…?」
「えぇ、大丈夫だから」
料理人は、お菓子を作ると言われ手伝いを頼まれたのに、クリームチーズをボウルに入れるよう指示されたことに戸惑っている様子だ。この世界ではチーズをお菓子に使うことは無い。
本当はハンドミキサーがあれば楽でいいのだが、あるわけがないので、手動で滑らかになるまでかき混ぜる。
そこに砂糖や卵、生クリームと小麦粉を加えて混ぜ、最後にレモンを絞ったら、砕いたクッキーを敷き詰めた型に流す。あとは窯に入れて30分ほど焼いたら、チーズケーキの完成だ。
食べやすいようにスティック状に切ったら、紙に包んで包装する。うろ覚えのレシピで作ったにしてはなかなかの出来だ。
「…!?」
「美味しいでしょう?」
最初は怪しんでいた料理人たちも、端を味見して表情を変えた。この様子なら、セレン様にも気に入ってもらえるだろう。
おがくずによって保管されている氷を取り出してきて箱に入れ、簡易的な冷蔵庫を作る。その中にチーズケーキを入れて、自室に戻った。
「お帰りなさいませ。上手くいきましたか?」
「えぇ、文句ない出来よ。後でヴェラにもおすそ分けするわね」
そんなことを話しながら、応対用のドレスに着替える。やはりバレンタインといえばピンクということで、フレンチローズ色の生地に白いレースやリボンがあしらわれているセミフォーマルドレス。今日は特別なので、いつもは着ないような甘いデザインのものを選んだ。
「お嬢様、カートレッタ様がお見えです」
「ありがとう、すぐに行くわ」
お待たせしないように、急いでエントランスに向かう。到着した時、ちょうどセレン様もエントランスに入ってきた所だった。
「ようこそ、セレン様。どうぞこちらへ」
サロンへ案内し、ソファに横並びで座る。いつもと同じ、2人の時間だ。
テーブルの上にはバスケットに入れられたチーズケーキが置かれ、その横には黄色とピンクのガーベラが飾られている。
「実は、セレン様にプレゼントを用意致しましたの。そのバスケットを開けてみてもらえますか?」
「プレゼント?今日は何か特別な日だった?」
思い当たる節がない、と不思議そうな顔をしながらバスケットを開けたセレン様は、キラキラと顔を輝かせた。
「もしかして、ララが作ったの?」
初めてバレンタインというイベントを体験し、どこか気恥ずかしくなった私は、首を縦に振って肯定した。加えて、私が1人で作ったものを食べてもらうのも初めて。より一層緊張が高まる。
「今日は、バレンタインという異国のイベントの日なのです。そ、の…恋人や好きな人にお菓子を渡すらしいので、真似をしてみたのですが…」
「嬉しい、最高の日だよ。ララの手作りスイーツが食べられる日が来るなんて…」
セレン様はチーズケーキを取り出して、まじまじと見つめてから頬張った。2人しかいないサロンに、クッキーが噛み砕かれる音だけが響く。
「うん、とても美味しい!チーズをお菓子に使うなんてすごい発想だと思ったけれど、意外と合うんだね」
「良かったです…セレン様にそう言っていただけて安心しましたわ」
ふぅっと緊張の息を吐いて、いつもの私に戻った。スイーツ作りが趣味で、私のために作ってくださることも多いセレン様に素人の手作りを食べてもらうのは想像以上に緊張した。
1本分を食べ終わったセレン様は、とても美味しかったよ、と笑ってくれた。そして、「もしかして、今日の格好も関係ある?」と鋭い指摘が入った。
「はい、今日は特別な日なのでいつもと少し違った感じにしてみましたの」
「どうりで可愛らしい格好をしているなと思ったんだよね。いつもはもう少し綺麗な感じなのに」
「セレン様のために選んでみましたの。いつもの服装と今日の服装、どちらが好きですか?」
はにかんで笑って聞くと、勢いよく抱き寄せられて頭にキスが降る。私は何度されても慣れないけれど、セレン様はだんだん板についてきた気がする。
「どっちも。当たり前でしょう?」
「セレン様、いつもありがとうございます。大好きです」
投稿日はバレンタインを過ぎている?ナンノコトデショウカ…
第2章も変わらず投稿していきますので、どうぞお付き合いください。よろしくお願いします!




