正体
「一時期お2人の婚約破棄が噂されていましたけれど、この様子なら全く心配なさそうですね。むしろ見せつけられてしまいましたわ」
ブランカ伯爵令嬢の言葉に、王女殿下とルアーラ様、グレシャム公爵子息様が大きく頷く。
「皆様、もう恥ずかしいのでやめてくださいませ…」
赤くなっているであろう顔を両手で隠すと、「ララ、それは逆効果です」とセレン様に言われてしまった。もう何をしてもからかいの対象になってしまう。
「セレンがロザリンド様に近づく男たちを片っ端から潰していたのも納得できるなあー」
「エビネ!ララの前で余計なことを言わないでくれ…」
セレン様が同じくらいの歳の男の子と気軽な口調で話しているのが新鮮で、思わずふふっと笑ってしまった。これを皮切りに、ルアーラ様とグレシャム公爵子息様の暴露が始まる。
「いや、あの時のセレンは怖かった。クラス分け試験と教養の授業の時にロザリンド様に対して失礼を働いた令嬢、あれがトラウマになって大人しくなったみたいですよ」
「確かにあれはさすがの僕でも怖かったですね。セレンはロザリンド嬢のことになると人が変わったように容赦なくなりますから」
「そうそう、ロザリンド様とご友人が街で絡まれた後、ロザリンド伯爵と一緒に厳罰を下していましたよね」
「もはや、気軽な気持ちで絡みに行った2人が哀れだった…」
何やら初耳の情報がたくさん出てきた。最近令嬢たちが私に攻撃を仕掛けてこないと思ったらセレン様のおかげだったらしい。アドベイラと遊びに行った時の件に、セレン様も関わっていたというのも初めて知った。
楽しそうに暴露を続けるお2人と、慌ててそれを止めようとするセレン様を眺めて、王女殿下は「愛されているわねぇ」と微笑む。
「2人とも、これ以上は怒りますよ?」
「「はい…」」
セレン様の背後に青い炎が見え始めてようやく、2人は口を閉ざした。ルアーラ様はともかく、グレシャム公爵子息様とも仲がいいとは知らなかったので、3人でわいわいとしているのを微笑ましく思う。
その輪に入れない私たち女性は、3人で恋バナを始めた。セレン様とグレシャム公爵子息様がこの場にいるので、話題はブランカ伯爵令嬢と婚約者のことになる。ブランカ伯爵令嬢と婚約者は政略的な関係なんだそうだ。この世界では全く珍しいことではない。むしろその方が多いくらい。私や王女殿下のように、本当の恋人同士という例の方が珍しいのだ。
「政略結婚の婚約ですから仕方がないのですけれど、可もなく不可もなくという感じの相手ですわ。私のことを気遣ってくれているのはよく伝わってくるのですが、私もお2人のような恋愛をしてみたいです」
「私とカートレッタ様も元々は政略的な関係だったそうですよ。私が記憶を失くしてから変わっていっただけですわ」
私がこの世界に来る前のセレン様がどんな人だったのかは私には分からないけれど、今とは全然違う、もっと義務的だったそうだ。今のセレン様からは想像もつかないが。
「そうね、最初は政略的な関係だったとしても、その後の関わり方次第でどうにでも変われると思うわ。元々自由恋愛の末、婚約した私に言われても説得力はないかもしれないけれど」
「ブランカ伯爵令嬢は明るくて可愛らしいですから、きっと婚約者様も魅力に気づいてくださりますわ」
しばらく恋バナが続いた後、メイクを直しに控え室へ向かった。茶会の会場から少し離れたところにある控え室に入ると、数人の先客が楽しそうに話しているのが聞こえた。1部屋がパーテーションで区切られているので誰なのかは分からないけれど、あちらも私のことを気にしている様子はないので問題ない。
ヴェラに軽くメイクを整えてもらい、会場に戻ろうとしたその時だった。
「カートレッタ様のお話、お聞きになりまして?」
「えぇ、本当に素晴らしいですわ。忌み子でさえなければ、元完璧令嬢と無理に婚約を続ける必要もなくなりますのに」
「仕方がありません、利害の一致というものですわ。忌み子と記憶を失った元完璧令嬢、他に相手を見つける方が難しいというものです」
セレン様の黒髪と赤い瞳が社交界で忌み嫌われているという話は聞いたことがあった。ここまではっきりと侮辱しているのを耳にしたのは初めてだけれど。私のことを悪くいうのは構わない。私がクララベル・ロザリンドになってから、社交界において全く役に立たない性格に変わってしまったのは事実だから。でも見た目だけでこんなふうにセレン様を侮辱するのは許せない。
直接抗議しようか悩んでいたその時、聞き覚えのある声で制止が入った。
「あなたたち、いい加減になさい。この国で一二を争う高貴な方々をそのように侮辱して許されると思うのですか?」
「いえ、申し訳ございません…」
「どこで誰が聞いているか分からないのです。今後、発言には気をつけるように」
その声は、アドベイラと外出した時に助けてくれた女の子のものだった。まさか、貴族だったなんて。ドアを開けて控え室を出ていった彼女の後を追って、立ち上がり歩き出す。
前を歩く彼女に声をかけると、気がついて振り返ってくれた。そしてその彼女はあの、マリンテリア様だった。




