アピール
「クララベル様、おはようございます」
「おはようございます。今日の髪型、よく似合っていますわ」
「嬉しいです!クララベル様の真似をしてみたんですが…」
緩やかなウェーブを描く綺麗な赤毛を編み込んでハーフアップにしているアドベイラは、いつもの数倍大人っぽく見える。私も今度、いつもアドベイラがしているようなおさげにしてみようかな。
「ふふっ、今日はおそろいですわね!」
最初こそ遠慮していたアドベイラも気軽に声をかけてくれるようになったし、ジュリオさんやルードラさんを含んだSクラスのみんなとは打ち解けられたと思う。
それに、教養の授業で絡んでくる令嬢はなぜだか突然話しかけてこなくなった。護衛のルアーラ様の出番がなくていいことだ。
「ロザリンド様が社交界に露出されるようになって、令嬢方も手を出しにくくなったのでしょう」
とルアーラ様は言うけれど、積極的に社交界に出ているわけではない。必要最低限、王宮主催のものなどだけだ。この世界に来たばかりの頃と比べて多少人と話せるようになったとはいえ、決して社交的になったわけではない。今は表に出てこないだけで、心の奥底にトラウマが根を張っていることには変わりないのだから。
「社交締めの王宮茶会がありますが、ララは参加しますか?」
「そうですね、今年最後ですし」
「それなら一緒に行きませんか?婚約の公表もしたわけですから」
茶会自体は男女別だが、会場までパートナーと一緒に行くのは珍しいことではないので、もちろん、と返事をした。
ヴェラと一緒に衣装部屋の中を見まわし、色ごとに分けられたドレスを吟味する。圧倒的に赤が多いのは、セレン様が事あるごとにオーダードレスをプレゼントしてくださるからだ。私の体はひとつしかないというのに、社交用、外出用、お客様の応対用、室内用など、数えきれない数のドレスが所狭しと並んでいる。
「今回は紫で合わせるとカートレッタ様から連絡がございました」
「紫?珍しいわね」
「ララ様の色に合わせるという事でしょう。さぁ、どれになさいますか?」
白からラベンダー色に移り変わるグラデーションのドレスに白いパンプスの組み合わせは、私の色にぴったりだ。さすがヴェラのチョイスとしか言いようがない。
「さすがララ様、お綺麗ですわ…!」
王宮茶会当日の朝、私の身支度を担当したヴェラが感嘆の声をあげた。いつものことながら、使用人たちのメイクアップ技術は本当に素晴らしい。ただでさえ整った容姿をしているクララベルの魅力を最大限に引き出す仕事をしてくれる。
「ありがとう、みんなのおかげよ」
「カートレッタ様がサロンでお待ちです。ご準備が整いましたら、1階までお越しください」
「わかったわ。急ぎましょう、あまり長くお待たせしたら悪いわ」
姿見の前で自分の姿を確認した後、階段を降りてサロンの扉を開いた。今日のセレン様はグレーのスーツに差し色で紫のクラバットやボタン、カフスを取り入れている。
「お待たせいたしました」
「いえ、シェルファ君が話し相手になってくれましたから。やっぱりララは紫がよく似合いますね」
シェルファに見送られて伯爵家の馬車で王宮へ向かう。まだ片手で数えられるほどしか足を踏み入れたことのない王宮だけど、今日はセレン様がすぐ隣でエスコートしてくれているのでいつもより緊張しない。
そして、今日は茶会としては珍しい、男女混合での開催だそうだ。会場に着くとすでに参加者が揃っており、空いているのは王女殿下の隣、私たちの席だけだった。
「王女殿下にご挨拶申し上げます。遅くなり、申し訳ありません」
「構いませんわ。わたしが早く来すぎてしまっただけですから。それよりクララベル嬢、私の隣に座ってくれないかしら?」
「光栄でございます。失礼致します」
私とセレン様が席につき、王女殿下が開会を宣言した。今日の茶会ではおそらく身分ごとにテーブルが分けられ、私のいるテーブルは、王女殿下、セレン様、ルアーラ様、グレシャム公爵令息、ブランカ伯爵令嬢というメンバーだ。全員一度は話したことのある人たちなので、自己紹介を含む挨拶は省略された。
ちなみにブランカ伯爵家はロザリンド伯爵家に次ぐ家門だ。お父様同士が親しく、社交の場で話せる人の1人。そして、グレシャム公爵令息は王女殿下の婚約者様だ。
他のテーブルはどうなのか分からないが、このテーブルは和やかな空気が流れている。王女殿下が場を回してくださっているおかげだ。
男女混合なので流行の話などは出ず、主に恋愛の話が中心。このテーブルの6人は全員婚約者持ちなので、他の人たちの噂話しかしないけれど。
「そういえばお2人の話をよく耳にするようになりましたわね。この間あらゆる噂を一掃するように婚約の継続を公表したとか?」
王女殿下が私の方を見て聞いてくる。ブランカ伯爵令嬢も興味津々のようだ。
「そ、うですね。カートレッタ様の誕生日に公表いたしました。そんなに話題に上がっているのですか?」
「元々注目度の高いお2人ですからね。カートレッタ侯爵令息が随分と入れ込んでいる様子だと噂になっておりますわ」
いつの間にそんな噂が…
するとブランカ伯爵令嬢が、声を弾ませ
「今日カートレッタ様がお召しのスーツの意図も明確ですし!」
と目を輝かせた。意図も何も、ただ私と色を合わせているだけなのだけれど。
「本当に、お2人はいつ見ても仲がいいですね」
「何かしら、私とは仲が良くないとでも言いたいの?」
王女殿下の言葉にたじたじとするグレシャム公爵子息を眺めながら、並べられたスイーツをつまむ。チョコレートがかけられたバームクーヘンをフォークで切り分けて食べようとしたその瞬間、右手を突然セレン様に掴まれ、横取りされてしまった。2人しかいない空間ならまだしも、こんなに人がいる場所で、しかも王女殿下の前で!
抗議の視線を送ったが、へらっと笑って流されてしまった。
「こうも目の前で見せつけられると、もはや尊敬しますよ」
案の定ルアーラ様は苦笑いで、ブランカ伯爵令嬢は「素敵!!」と少々興奮気味だ。ただでさえ高貴な人たちの集まるこのテーブルに視線が集まっているのに、騒がれたらもっと注目されてしまうのでやめて欲しい。




