ヒーロー
「お嬢さんたち、これから暇?」
まだ成人していないくらいの男性2人組に声をかけられた。俗に言うナンパだ。いくら私たちが大人びた顔立ちをしていて、少し背が高いからといって、9歳に向かって使う言葉ではない。
「カノンさん、暗くなってきましたし早く帰りましょうか」
「えぇ、そうね」
こういうのは無視をするに限る。伯爵家の護衛が近くにいるはずだし、人通りの多い王都で悪質な絡みはしてこないだろう。アドベイラと手を繋いで、少し早歩きで立ち去ろうとした。その時…
「おい、待てよ!無視すんなって!」
2人組のうちの1人が、アドバイラの腕を強く引っ張った。
「いたっ!」
「アドベイラ!…あなたたち、私の友達を傷つけるのは許しません。警備局に通報されたくなければ今すぐその手を離して立ち去りなさい!」
私らしからぬ口調で彼らを脅したが、あまり効果はなかったみたいだ。今の私たちはただの街娘。恐れるに値しないのだ。
「クララ…カノンさん、逃げてください!」
「ダメ、アドベイラを置いていけない!」
「早く行ってください、私は大丈夫ですから!!」
どうして護衛たちは来ないのか、誰も警備局に通報してくれないのか。どうすればアドベイラを助けられるのか、必死に頭を回転させるが、いい考えは浮かばない。こういう時に限って役に立たないんだから…!
より一層アドベイラを掴む手に力が入っていったその瞬間、一本の木刀が私たちの間に割って入った。何事!?と思い持ち主を見ると、私たちとそう歳の変わらない、栗毛の女の子だ。
「その手を離しなさい。私にボコボコにされたくなければね」
「はぁ?なんだこいつ」
どうやらこの女の子は私たちを助けてくれるつもりのようだが、2人組には相手にされていない。当たり前だ、彼女はまだ彼らよりもずっと幼いのだから。
「警告はしたわよ」
女の子がそう言った瞬間、木刀はアドベイラの腕を掴んでいる男の腕に振り下ろされ、鈍い音をたてた。男は反射的にアドベイラを離し、悶え苦しんだ。もう1人の男は女の子に向かって拳を振り上げる。「危ないっ!」と思ったが、女の子の蹴りが綺麗にみぞおちにハマった。あまりの綺麗さに、感嘆の声をあげてしまう。
「あなたたち、大丈夫?特にあなた、怪我はない?」
警備局員が2人組をとらえた後、女の子が話しかけてきた。
「は、はい…」
「友人を助けてくれてありがとうございました。ぜひお礼をしたいのですが、お名前をお伺いしても?」
私の大切な友達であるアドベイラを助けてもらったのだ、それ相応のお礼をするのが当たり前だ。しかし…
「名乗るほどではないので。無事ならそれでよかった」
そう言い残して立ち去ってしまった。なんだか、突然現れたヒーローのような女の子だった。
私たちは警備局員に事情を話してから再び帰路についた。すっかり辺りは暗くなり、アカデミーの前に着いた時には予定より1時間半ほど遅くなってしまった。馬車で迎えに来てくれていたヴェラは涙目で私を抱きしめ、「もうっ!どこに行ってらしたのですか!」と私たちを責めた。
護衛たちは人混みの中で私たちを見失い、必死に探したが合流できなかったそうだ。きっと屋敷に帰ったらお父様に厳罰をくらうだろうが、私にできることはないのでこっちを見るのはやめてほしい。
数日後警備局から伯爵家に届いた調査書によると、私たちに絡んできた2人組は王都で盗みや詐欺を繰り返していた余罪持ちだったらしい。手を出した相手が私たちというのが運の尽き。お父様が直々に処罰したそうだ。
幸いアドベイラに怪我はなく、「クララベル様をお守りできて良かったです」と笑う始末だ。セレン様には、「今度からはララだけでも逃げること!」と怒られてしまった。私さえいなければ私に危害が及ぶ可能性がないので、「さっきの方は伯爵令嬢様です、あなたたち、貴族様に手を出して無事に済むと思いますか」という脅し文句が使えたらしい。なるほど、だからアドベイラは私に逃げろと言ったんだ。
「私の判断ミスです、すみませんでした。でも、これからもし同じようなことが起こった時、私は友達を見捨てて逃げることなんてできません」
「はぁ…そうですね、ララならそう言うと思いました。仕方がないですね、護衛の数を増やすことで妥協します」
結局、助けてくれた女の子の正体は謎のまま終わってしまったけれど、結果的に誰も怪我をすることはなかったのでよしとする。もちろん、家族やヴェラたち、友達やセレン様に心配をかけないように、もっと気をつけるつもりだ。




