教育改革大作戦②
「教育改革大作戦」の滑り出しはまずまずだった。授業を真面目に受ければ、普段はなかなか見ることすらできないスイーツを食べることができると聞いた子供たちが、友達を連れてきてくれたみたいだ。用意していた机と椅子の半分くらいが埋まり、字の読み書きから授業が始まった。先生役は、10年ほど前にアカデミーを卒業した元生徒の人で、働いていた店から解雇されて困っていたところをスカウトしてきた。
この学校で勉強した子供たちが将来的に手取りのいい仕事に就けたら、先行投資した少なくない税金も回収できるだろう。今はとりあえず、1人でも多くの子どもにここへきてもらうことを考えよう。
夏休みに入ってすぐ、開校準備のためにロザリンド領へ行った私は、2週間ぶりに王都へ帰ってきてセレン様と一緒に過ごしている。
「ララってつい最近まで、僕の腕の中で外を怖がっているような女の子だったのに、急に活動的になりましたよね?」
「そうでしょうか…?でももしそうだとしたら、セレン様のおかげですわね」
セレン様が私の隣を一緒に歩きながら、支えてくれるから、少し変われたのかもしれない。相変わらず悪夢を見ることはあるけれど、半年前のようなフラッシュバックやパニックを起こすことはなくなっている。
「ララの力になれたなら何よりです」
「それはそうと、カートレッタ領では今どれくらい話が進んでいるのですか?」
「父から事業の承認が降りたので、まずはロザリンド領に人を送ってみようかと思っています。侯爵領でも初めてのことなので、たくさん学ばせてもらいますよ」
着々と進んでいるみたいでよかった。この調子で他の領にも広まっていったらいいんだけど。
「ララ、少し痩せましたか?」
「ち、ちゃんと食べてましたよ!?」
3食欠かさずに毎日食べていたし睡眠も十分とっていたので、顔から手を離して欲しい。ふふっと笑ったセレン様を軽く睨んでおいた。こういう時のセレン様は絶対に面白がっているから。
「ダメだよ、ララがちゃんと自分に気を使わないと僕が怒るからね?」
「もちろん、よくわかっていますわ」
セレン様が怒ったら怖いので、自分の体調には細心の注意を払っているつもり。セレン様に迷惑や心配をかけるわけにはいかないし、ましてやまたアカデミーを欠席させるなんてことを起こしてはいけない。セレン様は侯爵家の子息様で、今後の王国を支える臣下筆頭なのだから。かくいう私もそんな方の夫人になる予定なのだが。
夏休みが終わり、再びアカデミーに通う生活が戻ってきた。5月から始まった社交の場に、少しだけ顔を出したこともあって廊下で話しかけられることも増えた。まだセレン様のようにたくさんの人の前で堂々と話すことは到底できないけれど、前世のことを思ったらかなりマシになった方だと思う。親しい友達と呼べるような人はアドベイラくらいだけど、平穏に楽しく生活できている。
アドベイラさんは、長期休暇中にロザリンド領の学校を見に行ったらしい。「自分が幼い頃にこんな学校があればよかったのに」と思ったそうだ。きっとアドベイラは字の読み書きから大人に教わって、ここまで努力してきたはずだ。だからこそ、彼女が見つけた改善点は非常に参考になる。帰ったらお父様にすぐ報告しよう。今後のより良い運営のためにも。
「夏季休暇中に無事に開校いたしました。お力添え、ありがとうございます」
久しぶりに学長室を訪ねた私は、半年前と同じように学長と机を挟んで相対している。異例のスピードで支援を決めてもらい、教育システムや教材の手配を手伝ってもらったので、お礼を言いにきたのだ。お父様から文書で公的な謝礼は出ているが、私が始めたことである以上、自分が動くことも大切だと思う。アカデミーに通っているので、そこまで手間にならないし。
「いや、構わない。国王陛下も感心しておられた。まだ成人すらしていない完璧令嬢が新しい事業を始めたのか、と」
「恐縮なことでございます。私は案を出したまで、実働はほとんど父が行いましたので」
「そんなに謙遜することではない。現状、事業を手掛けるアカデミー生は君とカートレッタ侯爵家の息子くらいだ」
お礼を言いにきたはずだったのに、終盤は褒められて終わってしまった。
こんなに期待されている以上、責任を持ってやり遂げないといけない。この先シェルファが治めることになるであろう、ロザリンド伯爵領のために。




