科目選択
窓から差し込む日光で目を覚ました時には、すでにクラス対抗戦から丸1日以上が過ぎていた。ぼんやりとしているとヴェラが部屋に入ってきた。
「お目覚めになったんですね、体調はどうですか?」
「随分良くなったわ。心配をかけてごめんなさい」
問題なく話せる。ふうっ、と息を吐いて、少し落ち着いた。
「いえ、よかったですわ。それはそうと、昨日ララ様がお目覚めになったとご連絡しましたところ、カートレッタ様からお見舞いに来たいと返信がありました。いかがお返事いたしましょうか?」
「そうね…セレン様にもご心配をおかけしたし、ぜひにとお答えしておいてくれる?」
「かしこまりました」
その日は夜まで1日ベッドの中で本を読んだり、刺繍をしたりして過ごした。ヴェラはもちろん、時々シェルファやお母様が来てくれるので退屈はしない。
翌日、手作りのスイーツを手に、セレン様が私の部屋を訪れた。すぐに紅茶の準備をしてもらい、ベッドサイドの椅子を勧める。
「僕の隣でいきなり倒れた時はさすがにびっくりしましたよ。だいぶ顔色が良くなったような気がしますが…」
「はい、もうかなり良くなりましたわ」
よかったです、と笑ったセレン様を見て、漠然と私の背後にいた不安が消えていった。やっぱりセレン様の笑顔はすごい。私を安心させる力がある。
私が倒れた後の話やグラン先生からの伝言を聞いた後は、選択科目の話をする。私たちSクラスは、ベスビア語や算術、外国語に王国史などの主要教科はH R教室で受け、それ以外の科目は自分で受講したい教科を選択できる。これらの科目は、貴平問わず同じ教室で学ぶ。
「セレン様は選択科目は何を選ぶのですか?」
「そうですね、剣術と領地経営学、経済学あたりを取ろうと思っています」
なるほど…私は一緒に受けることはできなさそうだ。でも、知り合いが誰もいない科目を取る勇気はないので、次の授業日にアドベイラにも聞いてみよう。
「ララが1人で取る科目の時は、僕の友達に気にかけておくよう伝えておきますね。この間のようなことは起こさせませんから安心してください」
本当に、セレン様は私の気持ちをよくわかってくれている。こんなに私のために手を焼いてくれるのを嬉しいと思ってしまう。もっと私が上手く立ち回れたら、してもらわなくてもいいことなのに。
「まだ食が細いと聞いたのですが、プリンなら食べられますか?」
今日は私のためにプリンを焼いてきてくれたらしい。こういう気遣いができるところがセレン様の素晴らしいところだと思う。
「はい、ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
セレン様の手からプリンとスプーンを受け取ろうとした時、
「ララはそのままでいいですから、ほら」
といわれた。そして、目の前にスプーンに乗ったプリンを運ばれる。えっと…
「遠慮してるんですか?ララは病人ですから甘えてくれたらいいんですよ」
ツッコミたいところはそこじゃないのだけれど、私が何を言っても引いてくれなさそうなので諦める。
思い切ってプリンを口に含み、「美味しいです」と笑ってみせた。実際は、本当に甘いのか、それとも別の原因で甘く感じるのか分からなかったけれど。
プリンがひとつなくなるまで、セレン様はこの恥ずかしすぎるやり取りをやめてくれなかった。「もうひとつ食べますか?」と聞かれたけど、丁重にお断りした。私の心臓がもたないから。
そうして2日間の週末が終わった。
「あっ、クララベル様!お元気そうで安心しました…」
「ご心配をおかけしてすみませんでした。もう大丈夫ですわ」
まだ親しく話すようになってから日が浅いにも関わらず、こうして心配してくれる存在がいるのはとてもありがたいことだ。私の友達はもうセレン様だけじゃない、世界は広がった。
「そういえば今日は科目選択ですよね、アドベイラは何を取るかもう決めましたか?」
「はい、私は外国語が得意なので異国文化の授業と、家政科を取ろうと思っています。クララベル様は何を取られるのですか?」
「そうですね…今後のことを考えて教養の授業は必須だと思いますし、私も外国に興味があるので異国文化の授業を取ろうかと考えていますわ」
「それなら、異国文化の授業はご一緒させていただいてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんですわ。私の方からお願いしたいくらいですもの」
ひとまず教養の授業以外は誰かしら話せる相手がいる。よかった、前世の授業のように、「2人組を作って」なんて言われたら困るところだった。
「クララベル様ならすぐに素敵なお友達ができるに違いありませんね。こんなにお優しくて綺麗な方を周りが放っておくはずありませんもの」
「そうなんですよ、アドベイラさん。だからこそララを怪しい人から守って欲しいのです」
急に私の背後からセレン様の声がした。あまりに突然で気配を感じなかったものだから、小さな悲鳴をあげてしまった。
「お任せください!クララベル様は私にとっても大切な方ですから」
「助かります、よろしくお願いします」
実際にはしていないのに、2人の間で固い握手が交わされたような気がする。そんな心配をされるようなことになるわけがないので、ぜひとも安心して欲しい。




