クラス対抗戦③
一部暴言、暴力表現が含まれます。苦手な方は読み飛ばしてください。(後書きに今話のあらすじをまとめておきます)
私は淡々と説明していく。前世で通っていた中学校で興味を持ち、調べた時の知識を。
「まず初めに、自陣の左右の森に半分ほどの兵を潜伏させておきます。残りの半数のうち、1割ほどの兵が敵陣に挑発をしに行きます。敵兵の戦闘意思が確認できたら自兵は戦略的撤退をし、自陣へ下がります。そのまま敵兵を引き付けて自陣まで寄せたら、森に潜伏させていた兵たちを出し、3方向から攻撃をする、という戦術です」
この戦術は釣り野伏せと呼ばれるもので、戦国時代に島津家が使用していたとされるものだ。この世界でこの戦術が通用するのかはわからないけれど、問題の解答としては不足ない気がする。思考力を問う問題に前世の知識を使って答えることが正しいかどうかは別として。
「な、るほど…そのような戦術は初めて聞きましたが、とても効果的だと思います」
「ララ、その案は自分で?」
「いえ、確か東方の国の戦術書に記載されていましたわ。どの本だったかは忘れてしまいましたが」
嘘をついてしまってごめんなさい。でも、本当のことを言うわけにはいかない。私が実は異世界から来ましたなんて言った時には、みんな頭がおかしくなったと思うだろうから。
結局私以外から他に案が出ることもなく、釣り野伏せを回答とすることにした。あくまで日本で使われていた戦術で、この世界で評価されるのか未知数だけど。
「それではまず、Aクラスから回答を発表してください」
Aクラスの回答はいわゆる夜襲で、相手が油断している隙に攻めるというものだ。こういった問題では模範回答とされるのかもしれないが、一般的すぎると感じてしまう。
「続いて、Sクラスの回答をどうぞ」
案を出した私が発表するように4人から促されたけれど、1000人以上から注目される中で自分の考えを話すなんて絶対に無理だと断った。代わりにセレン様が堂々と発表してくれる。入学式の時も思ったけれど、やっぱりセレン様はすごい。私なんかとは住んでいる世界が違うのだ。
先生たちが両クラスの回答について話し合っている間、会場はずっとざわざわしていた。クラス対抗戦の優勝者が決まる戦いなので当たり前だけど、自分たちのことを言われていると思うだけで怖いと思ってしまう。自分の意見がクラスの意見として採用されたからなおさら。
10数分後、司会の先生が話し始めた。
「お待たせしました。それでは結果を発表します。優勝は…」
大ホールが静寂に包まれる。さっきのざわめきも怖かったけれど、この静寂も、同じように怖い。私のせいでSクラスが負けてしまうなんてことがあれば、これからみんなに合わせる顔がないとさえ思う。握った拳に自然と力が入った。
「優勝はSクラス!!」
瞬間、会場にわぁぁっっと歓声があがり、割れんばかりの拍手が私たちを包んだ。安心して、緊張の糸がプツンと切れた音がした。そして視界がどんどん暗くなっていき、遠くでセレン様や他の3人が私の名前を呼んでいるのが聞こえる。そのうち、声も聞こえなくなって完全に意識を手放した。
「お前さ、いつまで俺の前で邪魔するわけ?いい加減鬱陶しいんだよ!!」
後ろから声をかけられて振り返ると、前世で通っていた中学校のいじめっ子がいた。どうしてここに…
主犯格だった彼は、いつも私に暴言を浴びせ、クラス内での孤立を加速させる原因になっていた。
「……っ」
耐えればいい、これは現実じゃない。耐えて耐えて耐えればこの嵐は通り過ぎる。たとえどんな言葉を浴びせられたとしても、大丈夫。何も考えず、何も感じなければいいんだ。これまでそうしてきたように。
心の底を根を張るように侵食しているトラウマは、あたたかい人たちに囲まれて数年を過ごしただけで簡単に癒えるものではなかったみたいだ。頭の中に次々とフラッシュバックが起こる。パニックで過呼吸になったのに、酸素が薄く感じる。次第に朦朧としてくる。
「おい、なんとか言えよ。なぁ!!」
頭の皮膚が強く引っ張られる感覚に、思わずうめき声が出た。
「いっ…やめ…」
「はぁ?お前の分際で俺に意見するなよ。ふざけてんの?」
もう嫌だ、せっかく逃げたのにどうしてまたこんな目にあわないといけないの…
喉が震えてまともな言葉を紡げなくなり、その場へしゃがみ込んで頭を手で覆った。ああ、早く終われ。早く逃げたい。もうやめて…
「…シェ、ルファ?」
「姉様!!」
ベッドサイドに座っていたシェルファは、目尻にためた涙を頬へと流した。クラス対抗戦のプレッシャーが自分の思っていたより大きく、強くないクララベルの体と私の心には負担が重すぎたようだ。
「ララ様、どうか無理はしないでくださいませ。心臓がいくつあっても足りませんわ」
「本当だよ、セレン様もすごく心配してたよ?」
「ご、め…」
声が出ない。心配をかけてごめんなさいと謝りたいのに、思うように声が出ない。どうしてだろうと考えて、現実のような夢を見たことを思い出した。体は熱いのに寒い。頭がふわふわとして、詳細を思い出せない。
「無理にお話にならなくても大丈夫ですよ。明日は休日ですし、今日はゆっくり体を休めてください」
「じゃあね、姉様」
ヴェラがベッドサイドに水差しを置いて2人で退室していった。もう何も考えられない。考えたくない。今はただ、深い眠りの波に飲まれて身を委ねていたい。
読み飛ばした方向けのあらすじ
ララは前世の戦国時代の戦術をクラスメイトに説明し、Sクラスの回答とした。結果、クラス対抗戦の優勝はSクラスとなった。喜びも束の間、プレッシャーが祟ったのかララは意識を失う。
現実のような夢の中で、前世のいじめっ子に出会う。暴言と暴力を浴びせられ、トラウマがフラッシュバックしたことによりパニック状態になる。
再び目を覚ましたが、思うように声が出せなくなっていた。




