クラス対抗戦②
「正解は…またもSクラス!!やはりSクラスを倒せるクラスは今年も現れないのでしょうか!?」
私たちSクラスは準決勝を突破した。ここまでただひとつの間違いもない。私はというと、まだ一度も発言していない。ここはさすがというべきか、私の出る幕もなく他の4人が正解を積み重ねていく。話し合いに参加くらいはするけれど、あまり力にはなれていないと思う。やっぱり本物の天才が集まるSクラスには私のような努力型の凡人は必要ないんだ。
「次が決勝!相手は貴族科Aクラスですね…当然と言われれば当然の結果だなぁ」
ジュリオさんがいう通り、毎年決勝戦はSクラス対貴族科Aクラスの組み合わせになる。平民の教育制度が整っていないこの国で、入学直後のクラス対抗戦で平民科が勝ち上がるのは難しいからだ。同じAクラスでも、貴族科と平民科ではレベルが天と地ほど違う。そんな中でSクラスに所属する3人は本当にすごいのだ。
決勝戦の前に15分の休憩時間が与えられた。各自会場の大ホールから出て外の空気を吸いに行ったり、お手洗いに行ったりする。私はSクラスの自席で大人しくしていようと思い、会場を見回しながら過ごす。
「ご休憩中に失礼致しますわ。ロザリンド伯爵令嬢様で間違い無いでしょうか?」
「えっ、あ、はい…」
いかにもお嬢様という風貌の女の子が話しかけてきた。その子の後ろにはもう2人控えている。瞬間、クラス分け試験の日を思い出して背筋がゾクリとした。またあの時のように明確な悪意を向けられるのだろうか。
「ここ数年社交界でお会いできずに心配しておりましたの。久しぶりにお見かけしてご挨拶に伺った次第ですわ」
どうやら私がこの世界に来る前の知り合いらしい。社交界で私が高熱にうなされた結果記憶を失ったという噂が回っている以上、このように自己紹介をせずに声を掛けてくる時点で明確ではないが悪意しかないのだけれど。
「え、えと…記憶を失ってしまいまして。失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
私の頭の中にパチンという音が響く。名前も知らない目の前のご令嬢が、口元を隠していた扇を勢いよく閉じた音。社交のルールとしては問題だ。突然扇を閉じる行為は、相手の話に無理やり終止符を打つことだから。まだ一度も社交の場に出たことがない私が失礼だと言えるわけないのだけれど。
不機嫌そうに名乗った彼女は私を見定めるように眺め、小さく鼻で笑った。
「友人から聞いていた通りですわ。あの婚約者様と同じクラスになるためにどんな手を使われたのか、ぜひご教授いただきたいですわ」
明らかな侮辱、もう慣れてしまった。この世界では2回目だけど、前世のことを考えたらこの程度のこと、大した事ないと思ってしまう。
「ララ、そちらは?」
外から戻ってきたセレン様に後ろから声を掛けられる。別に悪いことをしていたわけではないのだけれど、過剰に反応してしまった。
「なるほど、お友達、ですね。セレン・カートレッタと申します。私の婚約者と仲良くしていただいたみたいでありがたく思います」
セレン様がいつになく怒っている。顔は笑顔なのに目が全く笑っていないし、私を背に隠すように立っている。おかげでご令嬢たちのことが見えなくなった。
「お初にお目にかかりますわ。とてもお似合いの婚約者様でご結婚が楽しみですわ」
「ありがとうございます…あぁ、もう少しお話ししたかったのですがそろそろ再開の時間のようです。また次の機会にぜひ」
3人は踵を返してどこかへ去っていった。セレン様のおかげで助かったけれど、お手を煩わせてしまって申し訳ない。
「あ、あのセレン様…すみませっ」
「あぁもう、どうしてすぐに助けを呼ばないんですか!アドベイラさんの報告を聞いて飛んできたんですよ!?」
また怒られてしまった。セレン様には迷惑ばかりかけてしまっている。そして間違えてばかり。
「ララは綺麗な上に勉強まで出来て、周囲のヘイトをかいやすいんですから、ちゃんと自覚を持って気をつけてくださいよ?」
「セレン様がそれを言いますか?」
思わず2人ともふふっと笑ってしまう。何か嫌なことがあっても、こうやってセレン様と笑っていられる時間があるなら私はまだ大丈夫だと思える。
「おふたりさん、仲が良いのは結構ですけれど、もう始まりますよ〜」
ジュリオさんの指摘とほぼ同時に先生が再開を宣言した。そして決勝の問題文が読み上げられる。
「この問題には明確な正解はありません。皆さんの思考力を判断します。それではまず、配った地図を見てください」
先生から配られた紙には地図と2つの数字が書かれていた。なんの数字だろう。関係性が全くわからない。
「これは架空の地図です。そして書かれている数字は軍隊の人数です。皆さんを西側の国の指揮官として、東側の国に勝つための戦術を考えてください。なお、解答を作成するための質問をひとつのみ許可します。制限時間は15分、それでは始め!」
地図に書かれた2つの国の間には大きな川が流れている。両国とも背後は高い崖で、左右は深い森。西側の国の近くには人里があるみたいだ。色々と情報が足りなさすぎる。
「さて、思考力を問うというくらいですから、正面突破という手は無しですね。しかし、川がある以上渡る間の攻撃をどうかわすかということも考えなければ…」
「戦術ですか…全く予想していない範囲からの出題でしたね。少なくとも9歳の僕たちに問うものではありません」
冷静派のセレン様とルードラさんが頭を悩ませている。アドベイラさんは戦術に関しては全くわからないとお手上げ状態。当たり前だ、この年で戦術に詳しい人がいたら逆に怖い。しかし、私にはひとつ、思い当たる節があった。
「これって、資金は無限なんでしょうか?それと、馬は何頭くらいいるんでしょうか?」
「何も記載されていないのでわかりませんね。何かいい案でも?」
「ええ、色々と条件を揃える必要はありますが、可能性としてはあると思いますわ」
私は少し、思案顔で微笑んだ。あまり前世の知識を振りかざしたくはないのだけれど。今日は全くみんなの役に立てていないので仕方ない。前世で学んだこと、ここで生かしてみせよう。




