クラス対抗戦①
制服から普段着に着替えて、ダイニングへ向かう。途中でシェルファと合流して、扉を叩いた。もうすでにお父様とお母様は席についていて、仲良さげに談笑していた。
「ただいま帰りました。お待たせしてしまいすみません」
家族4人が揃って大きなテーブルに並び、いつもの食事が始まる。私が転生してきた翌日に「食べきれない量の食事はもったいない」と言ったことで、それ以降ロザリンド伯爵家の食事は適量が出されるようになった。
「2人とも、アカデミーはどうだ?友達はできそうか?」
「そ、うですね…同じクラスの人とは少しだけ話せましたわ。他のクラスとはまだ関わりがないのでなんとも言えませんね」
なんとも言えないというか、おそらくコミュ障を発動させてしまうだろう。まだ2日しか経っていないため、クラスメイトとさえそんなに打ち解けられていないのだから。
「僕はね…テルル様と仲良くなったよ!」
「テルル、というとカートレッタ侯爵家の?」
「うん、同じクラスなんだ〜」
テルル様はカートレッタ侯爵家の次男。つまり、セレン様の弟君だ。侯爵邸にお邪魔したときに何度かお会いしたことがあるくらいで、特別関わりはない。やんちゃだけど、私が記憶喪失だと言ったら心配してくれたいい子だ。シェルファと同い年だと聞いてはいたけど、まさか同じSクラスだったとは思わなかった。あまり勉強が得意ではないと本人から聞いたので尚更。
「姉弟揃って侯爵家にお世話になっているのね。今度侯爵夫人にお会いしたらお礼を言っておかないといけないわ」
「そうだな、私から侯爵にも機会を見て伝えておこう」
侯爵家序列1位のカートレッタ家と伯爵家序列1位のロザリンド家の仲は非常に良好。これがこの国に及ぼす影響はかなり大きい。格上の家門に娘を嫁がせるということはその家門の傘下に入るということを意味する。武芸の秀でた一族として名高いカートレッタ家と代々王宮の文官を輩出してきたロザリンド家が政略結婚という名の協力関係を結ぶということは、ベスビアナイト王国の文武が結束力を強めるということだ。世間を知らない私でも、この婚約の目的ぐらいは理解しているつもり。
「そういえば中等部は入学して最初のクラス対抗戦があるんじゃないのか?」
「あらぁ、懐かしいわね。あなたがいたSクラスに負けたのよ、今でも忘れないわよ」
お父様とお母様の話によると、クラス対抗でクイズ大会的なことをする学校行事らしい。毎年新入生の親睦を深める目的で開催され、Sクラスが優勝するのが慣例となっているんだとか。
「姉様とセレン様がいるなら今年もSクラスが優勝ですね!」
ただでさえ親睦を深めるという側面に怯えているのに、正面に座っているシェルファからプレッシャーを追加された。まだ先生から説明すら受けていないのに、もうすでに後ろ向きになってしまった。
「と、いうわけで、知っているものも多いと思うが、今年もクラス対抗戦を開催することになった。もちろん、このSクラスも全員参加だ。1週間後の本番までに各自協力して対策をしておくんだぞ」
先生が簡単なルール説明をした後、セレン様の進行のもとで担当の割り振りが行われた。様々な分野の学問から出題されるクイズ大会形式で、勝ち上がりトーナメントらしい。
「それぞれが得意な範囲を担当するのが1番効率がいいと思います。とりあえず順番に得意科目を教えてもらえますか?」
セレン様は算術と武術、私は基本的な主要教科、アドベイラは家政科と外国語、ジュリオさんは王国学、ルードラさんは地理が得意だということを共有した。私だけ何か突出した何かがなくて申し訳ない。みんな何かしら自分の武器を持っているのに。
「みんなそれぞれ得意科目が被っていないみたいなので、カバーできていないところだけ分担すれば個々の勉強量を減らせますね」
「そうですね、僕もそれでいいと思います。貴族、平民向けのどちらも対応できますし、きちんと勉強さえすれば問題ないかと」
9歳だとは思えないセレン様とルードラさんが冷静な分析をし、いつでも明るいジュリオさんが「2人とも固すぎる」とちゃちゃを入れる。なんだかんだ出会ったばかりだけど仲のいいクラスだと思う。
最終的に私は主要教科の基礎固めと、貴族向けの問題の対策を担当することになった。貴族向けと言っても、社交界で必要とされる作法などで、いつしかセレン様に相応しい婚約者を目指すために特訓した内容がほとんどだ。
「ララに大変な範囲を任せてしまってすみません。割り振った僕がいうのもなんですが、あまり無理しないでくださいね?」
休日に伯爵邸を訪れたセレン様はそう言ってくれた。1度セレン様に怒られたことがあるので、しばらくは無茶をすることはないと思う。た、多分…
「はい、気をつけますわ。セレン様こそ、アカデミーに後継者教育とお忙しそうですし無理してませんか?少し顔色が悪いような気がするのですが…」
「心配ないですよ、昨日少し寝つきが悪かっただけなので」
明らかに疲れている様子だ。何か私にしてあげられることってないだろうか。…そうだ!
思いついてすぐ、私は自分の太ももをポンポンと叩いた。
「もし嫌でなければどうぞ?」
「っ…」
セレン様の時が一瞬止まった後、少し微笑んで大人しく頭を預けてくれた。いつもは自分より高い位置にあるセレン様の頭がすぐ近くにあるのが新鮮で、艶やかな黒髪に手櫛を通してみる。
「セレン様の髪はキラキラしていて綺麗ですね」
いつもなら褒め言葉に対してすぐに返事をしてくれるのに、今日はなんだか変だ。一言も話さないけれど、疲れて眠りにつくわけでもない。ただただ心地よさそうに私にされるがまま。嫌がっている様子ではないのでこの貴重な機会を堪能させてもらおう。
結局、私の心ゆくまで髪を触らせてもらった。侯爵家の馬車までお見送りをした時、セレン様の頬が少し赤く染まっていた気がしたけれど、きっと夕日のせいだ。




