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【完結】ネガティブ令嬢、今世こそ自分を愛します!  作者: らしか
第1章

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虫除け

翌日、始業時間の30分以上前に教室へ行くと、既にアドベイラさんが席に座って読書をしていた。彼女は、学習の機会が与えられない平民出身の女の子でSクラスに所属するという強者。前世の知識を使っている私とは違って、正真正銘の天才だ。


「ロザリンド伯爵令嬢様、おはようございます」

「あ…おはようございます、アドベイラさん?」

語尾が上がって、名前をきちんと覚えていない人みたいになってしまった。私以外で唯一の女の子の名前を覚えていないわけが無いのに。


「どうぞアドベイラと呼んでください。伯爵令嬢様にさん付けして頂くような身分ではございません」

「わ、分かりました、アドベイラ…私の事もクララベルと呼んでください」

「光栄です!ありがとうございます、クララベル様」


私はようやく自分の席に腰を落ち着け、ひとつ息を吐く。ひとまず制服のジャケットを脱ぎ、教科書を開いてみる。特に意味はないのだけれど、何となく心のざわめきがひいていく気がする。


「おっはよーございますっ!」

「朝から声が大きいって…」


家が遠方のため、アカデミーの学生寮に住んでいるらしいジュリオとルードラが教室に入ってきただけで、かなり賑やかになった。


「随分と楽しそうですね…皆さん、おはようございます」

すぐ後にセレン様も来て、クラスメイトが全員揃った。まだ先生は来ないので、男の子3人は何やら楽しそうに話している。セレン様が同世代の男の子と話しているところを見るのは何気に初めてかもしれない。いつも私やシェルファと話している姿しか見ていなかったから。


「あの…クララベル様、少しお聞きしたいことがあるのですが」

アドベイラが席を立って話しかけてきた。突然のことに驚きながらも、教科書を閉じて彼女の方を向く。


「は、はいっ、なんでしょうか?」

「えっと…クララベル様はカートレッタ侯爵子息様とアカデミーに入学する前からお知り合いだったのですか?」


てっきりロザリンド伯爵領出身のアドベイラは婚約のことを知っているものだと思っていた。

「そ、う、ですね…セレン様とは6歳の頃から親しくさせていただいています」

「そうだったのですね。昨日の放課後にお話しされているのを拝見して気になっていたのです。車止めまでエスコートしておられた姿が慣れておられるように見えましたし…」


周りに人もたくさんいたので視線は感じていたけれど、まさか知り合いに見られていたとは…



「みんな、席に着くように。今日は各施設の案内と、これからの授業について説明する。大事なことだから集中して聞いてくれ」


グラン先生が教室に入ってきて話し始めた。アカデミーの敷地は広大で、簡単に迷子になる。毎年新入生のうち数人が講義棟に戻って来られなくなるんだとか。

「さあ、早速出発するぞ。メモが必要なら持っていくように」



それから1時間ほどかけてぐるっとアカデミー内をまわった。各クラスの教室や講義室のある講義棟、特別教室ばかりが集められている特別棟、学生寮、中央広場、大ホールなどなど。数えてもキリがない。なんせここ王立アカデミーはベスビアナイト王国の最高教育機関なのだから。


王立アカデミーはベスビアナイト王国の建国直後に建てられ、1000年以上の歴史を持つ。もちろん建物は建て直されている。初代国王陛下が貴族たちに相応しい高等学術を習得させるために最初の公共事業として莫大な費用をかけて作られた。それに反発した国民は平民の通学許可と公平な判断を行う機関として議会の設置を求めた。結果として、議会の設置は実現しなかったが、世界で初めて制度上は平民の高等教育を行えるアカデミーが誕生。

というのがこのアカデミーができた背景らしい。


広大な敷地を歩き回り、少し疲れたのでみんなでカフェテリアを訪れる。平民から貴族まで身分に関係なく使用できるので、お昼時には多くの生徒が集まるらしい。今は授業中で私たち以外には誰もいないけれど。

ティーセットを頼んで、適当な席にそれぞれ座る。

「セレン様はお砂糖必要ないですよね。わ、私も必要ないのでどうぞ…」


隣のアドベイラにシュガーポットを渡す。ありがとうございます、と微笑みながら受け取ってくれた。

「さすがロザリンド伯爵令嬢様ですね〜カートレッタ様のことをよく分かっておられる」


ジュリオがニヤニヤとしながら私の方を見てきた。どうして私がセレン様と親しいことを知っているのか。

「ジュリオ、余計なことは言わないよね?」

「もちろんですよ、カートレッタ様に逆らうわけないじゃないですか」


なんだかセレン様笑顔が黒い気がするのは私の気にしすぎ?

「ララが私のことをよく分かっているのは当たり前。婚約者としてもう1年半一緒に過ごしているんだから」

セレン様の発言に凍りついた人が3名。私とセレン様が婚約していることを知らなかったアドベイラとグラン先生、そして私。なんと、ジュリオとルードラは昨日の時点でセレン様から聞いていたらしい。


「セ、レン様っ!?」

「Sクラスのみんなには知って置いてもらったほうがいいでしょう?特に、アドベイラさんにはお世話になると思いますし」

それは、そうなんだけど。まだクラスメイトとの関係値が高くない今言ってしまう必要性があったのかな…


「そうか、カートレッタ侯爵家とロザリンド伯爵家が婚約ねぇ」

グラン先生は何やら思案顔。


「このことは他言無用だ。国のパワーバランスに関わる。だよな、カートレッタ?」

「はい、私は構わないと言っているのですがね。父の意向です」



ざわついたカフェテリアと私の心を後にし、再び教室に戻ってきた。なんだか少し疲れてしまった。今日は帰ったら早めに寝よう。

放課後になり、セレン様が伯爵家の馬車に乗って伯爵邸に来ると言う。私と2人で話したいことがあるんだとか。


「疲れているのに時間をとらせてしまってすみません。どうしても今日中にお話ししておかなければならないことなのです」

「いえ、セレン様ならいつでも問題ありませんわ。お話というのはなんでしょうか」

「僕たちの婚約関係の公表についてです。僕は早々に公表して余計な手間を省きたいのですが、父上がそれをよしとしないのです。ただでさえ社交界での私たち2人への風当たりは強いのだからと。だから今日、Sクラス内だけで公表をしました。基本的には何かあれば僕が対処しますが、同じ女性のアドベイラさんにしかララを守れない状況もあると思いますからね」


余計な手間、とはなんのことだかわからないけれど…セレン様と侯爵様が私のために色々と考えてくれているのは伝わってくる。

「わかりましたわ、今日はいきなりだったのでびっくりしましたが…今度からはこのように大事なことは事前に一言報告をお願いいたします。私の心の準備のためにも」

「そうですね、すみませんでした」


その後も雑談をしていたらもう外は暗くなり始めていて、侯爵家の馬車が迎えに来ていた。セレン様をお見送りして、晩餐を食べにダイニングへ向かう。今日はお父様が帰ってくるので、時間を決めてみんなで食べようと約束していたのだ。

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