クラス分け試験
ついにアカデミーのクラス分け試験当日を迎えた。いつもより早く起きて身支度を整える。悪目立ちしない、控えめな紺のワンピースドレスに白いパンプス。髪は邪魔にならないようまとめて、アクセントに侯爵領で買ったヘアバレッタをつけた。たくさん同級生が集まる場所に行くのはとても怖いけど、バレッタをつけていればセレン様が守ってくれているような気がして、少しだけ安心できる。
「姉様、そろそろ行くよ!」
部屋まで呼びにきてくれたシェルファと一緒に、馬車に乗ってアカデミーへ向かう。ちなみに、アカデミーは王宮の隣にあって、伯爵邸からは馬車で20分ほどだ。
アカデミーの入り口でシェルファと別れ、ついに1人になった。使用人は入り口までしかついてこれないので、ヴェラは外で待機している。震える足を押さえつけて受付を通り、試験会場の自分の席に座った。受付で少し声が上擦ってしまったけれど、それ以外には今のところ大きな問題はない。試験が始まるまで大人しくしていよう。変に目立って目をつけられたらたまったものじゃない。そう思っていたのに…
「ごきげんよう、ロザリンド伯爵令嬢。ずいぶんと長い間お姿を拝見しませんでしたが…ふふっ、どうやら記憶を失くしたという噂は本当のようですわね。完璧令嬢と謳われた面影はどこにもありませんもの」
「本当ですわ。そんなに地味なドレスを着て、安そうな髪飾りをして恥ずかしくありませんの?」
「でも、あの婚約者様にはお似合いではなくって?」
どうしよう。見るからに高位貴族の令嬢たちに声をかけられてしまった。そして、明らかに悪口を言われている。きっと、以前のクララベルに恨みでもあるのだろう。
私のことならまだ許せるが、セレン様のことを悪くいうのは許せない。でもそれ以上に、喉が固く閉まって、上手く収めることも、言い返すこともできない私の弱さが1番許せない。
「言い返す言葉もないみたいですわ、面白くない。行きましょう、相手にするだけ無駄ですわね」
「同じクラスにならないことを願ってますわ」
嵐が去っていった。結局何もできなかった。1年半で少しくらい成長したと思ったのに。むしろ何も感じないようにすることすらできなくなっている。人と話せるようになったのではない。周りの人たちに温かく接してもらっていただけだ。
「それでは試験を始める。各座席につくように」
「以上で試験を終了する。荷物をまとめた者から帰宅してもよろしい。結果は後日郵送で連絡する」
結局最後まで集中できず、本来の実力は出しきれなかった気がする。良くてAクラスというところだろう。一緒に勉強してくれたセレン様や、ずっと応援してくれていた両親、ヴェラたちに申し訳ない。
「僕はいつも通りでしたが、ララはどうでしたか?」
「えぇと…少し緊張してしまって、自信はないですね…」
試験から数日後、セレン様が伯爵邸を訪れた。
試験会場であったことは誰にも話していない。周りで見ていた人たちがいるからそのうちバレるかもしれないけど、余計な心配はかけたくない。これは我慢でも遠慮でもなくて、保身だ。話せば詳しく思い出すことになるし、その過程で気持ちが溢れてしまうかもしれない。そんな姿を2度も晒したくはないから。
「そうでしたか。試験とはそういうものですよね…そうだ、気分転換にお茶にしましょう。ララが好きなラズベリーのスコーンを焼いてきましたから」
「ありがとうございます、セレン様のスコーンはいつ食べても美味しくて大好きなんです」
久しぶりに勉強をしない時間を2人で過ごして、同じクラスになれなくてもこうして話せる時間があるなら、それでいいと思った。
数日後、私とシェルファの試験結果が届いた。伯爵邸のみんながエントランスに集まって、封筒を開ける。まずはシェルファの結果から。
「えーっと…わぁ!やった、Sクラスです!」
シェルファは脅威の得点率9割越えで首席。みんな大きな声で讃え、祝福した。もちろん私も。さすがシェルファ!
「次は私ですね…はぁ、よかった!Sクラスになりました!」
自信はなかったけど、思っていたよりも正解していたらしい。得点率9割5分の次席だ。十分、自分が思っていたよりもずっと良い結果だった。
「2人ともSクラスなんて!すごいわ、よく頑張ったわね!」
「よくやった、2人とも。誇りに思う」
お父様とお母様が褒めてくれて、その日はちょっとしたお祭り騒ぎだった。晩餐は私とシェルファの好きなメニューばかりで、料理長は張り切って作りすぎたようだ。
いつもより遅くまで家族で過ごし、ベッドに入ったらすぐに眠りについてしまった。




