お互いの色
いつも通り、ヴェラの声で目を覚ました。窓から朝日が差し込んでいて、連なる山々が見える。今日はお忍びで街に行くようなので、町娘風の白と赤のワンピースにシンプルな茶色い革靴という格好。この国で私の銀髪とセレン様の黒髪は目立つから、お忍びになるのかは少々疑問だけど…
「おはようございます、セレン様。お待たせしてしまってすみません」
朝食をとるためにダイニングに行くと、既にセレン様もお忍び用の服を着て待っていた。いつもより装飾が少ない簡素な服装なのに、いつも以上に気品に溢れているのはなぜなのか。
「おはようございます。ララはシンプルな格好もとても良く似合いますね。体調はどうですか?」
「全く問題ありません。むしろ涼しくて快適なくらいですわ」
セレン様と会話をしながら朝食を終えて、そのまま街へ出る。お忍びなので目立つ護衛はいないけれど、そこら中に隠れながら守ってくれているらしい。
街の中心では朝市が開かれていて、大勢の領民で混雑している。
「はぐれるといけませんから」
と言ってさりげなく手を繋いで、散策を続行。はたから見たら朝から仲のいいカップルにしか見えないと思う。事実、婚約者なんだけど。温かい視線が飛んできて恥ずかしい…
「あ、セレン様!何かやってますよ!」
朝市の中央で、前世でいうところのフリーマーケットのような催しがされていた。それぞれ領民が手作りの品や使わなくなった物などを出品している。お手頃な価格帯で、お小遣い稼ぎ程度にはなりそうだ。
「あぁ、あれはこの領の名物なんです。夏は観光客が多いですからね。こうやって現金収入を得ているんですよ」
「少し見て行ってもいいですか?」
ふらふらと色々なお店を見て回り、ふとアクセサリーを販売しているブースが目についた。母娘と思われる2人が店番をしていて、手作りだとは思えないほどデザインと作りが美しい。赤いヘアバレッタが一目で気に入った。
「こ、これを、購入したいのですが…」
「はいっ、ありがとうございます!お姉さん、お洋服もこのバレッタもお隣の恋人さんの瞳の色なんですね」
「えっ、あっ…」
そんなつもりはなかったのだけれど、無意識のうちにセレン様の綺麗な瞳の色に惹かれていたのかもしれない。
「確かに、僕の色ですね…」
セレン様は頬を赤く染めて少し顔をそらした。つられて私まで恥ずかしくなってしまう。繋いだ手からこのドキドキが伝わってしまわないかと心配する。
「まぁ、素敵ですね。こちら、おまけしておきますね」
そう言って深い紫のネクタイピンを一緒に包装してくれた。お互いの色を身につけ合うなんて少し気恥ずかしいけれど、セレン様が私の色を身につけてくれているところを想像して嬉しくなった。
一通り朝市を見て回り、気がつけばもうお昼時を迎えていた。異国からの品物や伝統工芸品を眺めるのが楽しくて気が付かなかった。
「少しここで待っていてくださいね」
セレン様はそう言い残して私を道端のベンチに座らせた。そのまま屋台へ行き、手慣れた様子でサンドイッチを購入して戻ってくる。よくお忍びで街に降りられるのか、なんてことを考えながらお礼を言った。
「ここのサンドイッチはパンが柔らかくてとても美味しいのです。ぜひララも食べてみてください」
「ありがとうございます。いただきます」
受け取ってかぶりついたサンドイッチはびっくりするくらい美味しかった。硬いパンが主流のこの国で、こんなに美味しくて柔らかいパンが食べられるなんて。
食べ終えた後はのんびりと散歩をして、ティータイムになったら庶民的なカフェへ入る。
そんな一部始終を見ていた護衛たちが、屋敷の使用人たちに私たちの様子を話したようだ。おかげで同行しなかったヴェラから
「仲がよろしいようで何よりですね」
と微笑みながら言われてしまった。他にも、屋敷内にいる限りどこかしらから温かい視線と、時々茶化す言葉が聞こえてくる。きっと、朝市のマーケットで購入したバレッタを気に入って毎日つけているのも原因の一つだと思う。ちなみに、セレン様もネクタイピンを愛用しているようで、頻繁に見かける。
「ララが僕の色をつけているだけで多少の虫除けにはなるはず」
とギリギリ聞き取れるくらいの小さな声で言っているのが聞こえた気がするけどきっと気のせいだ。虫なんて元々寄ってきていないから。




