本編完結記念SS②【双子の名前】
作者の計画性がないばかりに、色々な時期を行ったり来たりして申し訳ありません!
今話は双子が生まれた時のお話です。
※少々長めとなっております
隣の寝室から、耳をつんざくような大きな泣き声が聞こえた。新生児の、元気な産声である。ハラハラとして落ち着かない時間を過ごしたが、子どもの無事は確認できほっと息をついた。
ララは大丈夫だろうかと心配していると、しばらくして私室の扉が開かれ、使用人の1人が報告を上げてくれた。
「元気なおぼっちゃまです。奥様もご無事です」
「そうか、そうか…」
ララは元々体が弱い。少し無理をしただけで体調を崩し倒れてしまうこともあるくらいだ。そんな彼女が出産という命懸けの行為に耐えられるだろうかとずっと不安だった。母子共に無事だと聞き、身体中の力がふっと抜けて安心した。
「あちらが落ち着きましたらお呼びしますのでしばしお待ちください」
「わかった。ララにこれ以上負担がかからないように、ゆっくりでいいと伝えて」
「承知いたしました」
早く息子の顔を見たいと思う気持ちはもちろんあるが、何よりララの体調のほうが大切だ。ソファに腰掛け、呼ばれる時を待つ。
20分ほど経っただろうか。ばんっ!と音を立てて扉が開いた。
「だ、旦那様、元気なお嬢様です!!」
「!?…??」
意味がわからなかった。男の子ではなく女の子だったということなのか?と頭の中がクエスチョンマークで満たされた時、さらに後ろから使用人がやってきた。
「旦那様、どうぞお越しください」
「あ、あぁ…」
いまいち状況が把握できていないが、ようやく子どもに会えるのでわくわくとした気持ちで足取りは軽くなる。
「旦那様をお連れしました」
「どうぞ」
自分の私室とララの私室の間にある夫婦の寝室。ここ最近はララが1人で使っている。
「ララ!」
「セレン、ふふっ。そんなに慌てなくても逃げませんよ」
当然、ララの顔には疲労の色が見えるが、今にも倒れそうというほどではない。
そして、笑ったララの隣には2人の小さな小さな子どもが眠っている。
「…双子?」
「えぇ、そうなんですよ。私たちも驚きましたわ」
先ほどの報告はそういう意味だったのか!と1人で納得し、改めて2人を見る。髪はどちらも自分と同じ黒で、顔立ちはどことなくララに似ている気がする。目はまだ開いていないので色合いはわからないが、数日から1週間で開くらしいので今後の楽しみだ。
「ありがとう、ララ。一気に守らないといけないものが増えて身が引き締まるね」
世間一般的に双子はそう珍しいことではないが、貴族家には存在しない。というより、存在しないとされている。
古くから双子は災いを呼ぶと言われ、特に男女の双子は世を滅ぼすと言われてきた。くだらないただの迷信だが、悪魔の生まれ変わりだ、なんて話を信じる人もいる貴族社会では信じている人もいるのだろう。
そのせいで、貴族家で双子が生まれた場合は内密に処理されるか、そっくりの見た目をしている場合はどちらか一方をスペアとして1人の人間のように育てられる。だから貴族家に双子は存在しない。
「性別がわかったことだし名前をつけないとね…」
「カートレッタ家には名付けの法則や儀式などはありますか?」
「いいや、特にそういうものはないかな。僕の名前は母上がつけたらしいけれど、テルルは父上がつけたみたいだし」
「そうなんですね…セレンは何か考えていましたか?」
「特には。ララは?」
「漠然と、私たち2人を継ぐような名前がいいなと思ってはいましたが…」
今日はララも疲れていることだし、名前はまた明日にすることにした。子どもたちは使用人に任せ、ララにはゆっくり休んでもらおう。
翌日、ララはまだ体が辛いのでベッドの上から動かず安静にしている。
「昨日、僕たちを継ぐような名前って言っていたけれど、それはニホンの文化なの?」
「日本というか世界中に同じような文化があったのではないかと。もちろん、親とは全く関係のない名前、たとえば響きが気に入ったという理由でつけられることもありました」
「なるほどね」
ララが僕たちを継ぐような名前をつけたいというのなら、自分としては反対する理由はない。どのように関連させるのかが問題だが。
「何か案はあるの?」
「そうですね…書くものが欲しいです」
「わかったよ」
僕の手から紙とペンを受け取ったララは、何やら線を引いて絵のような、記号のようなものを書いた。
「これはカンジというものです。ニホンで使われていた文字のひとつで、これで1文字、多くの意味を持ちます」
「へぇ、これが文字なんだ…」
「ちなみにこのカンジは『おと』と読み、カノンという名前にも使われている字なんです」
おと、と読むのにカノンに使われている?
異文化すぎてすぐには理解できない。
「ふふっ、難しいですよね。これで、カノンと読みます」
僕がよほど訳がわからないという顔をしていたのだろう。ララは音よりも複雑な字を前に書き、2文字を丸で囲んでくれた。1文字目はうた、と読むそうだ。
「この音というカンジは、他にオンとも読みます。これならこちらの世界でも使いやすい響きなのではないかと思うのですが…」
「なるほど…いいね、すごくいいと思うよ」
「本当ですか!」
「うん、ララらしいね。ひとりはオンを入れるとして、もうひとりはどうする?」
ララはしばらくうーんと悩んで、小さな声でセレン…と呟いた。
はっと思いついたように紙に何かを書き、カンジではない文字らしきものも並んだ。
「何かいい案が浮かんだ?」
「はい、セレンという単語はニホンにもあるんです。月を意味するギリシャ語、だったと思うのですが、詳しくは覚えていません。セレーネだったかもしれません」
そしてララは、最近ニホンのことを思い出すのが難しくなってきたんですよね、と苦笑しながら言った。
「うん…?」
「つまり、月という意味を持つセレンから名前を継ぐなら、月を表す言葉にすればいいのではないかと思いまして…」
ここまで説明されてようやくララが言いたいことの意味を理解した。月という響きはこの世界の名前には合わないので、同じ意味を持つ言葉を使うということだろう。
「チキュウの、ニホン以外の言葉なら、ムーン、ルナなんかがありますね」
「ルナ、響きが好きだな」
「いいですね、ルナ、素敵な名前だと思います」
ララのイメージとしてはルナは女の子向けだというので、長女に使うことにした。ただ、2文字の響きだとどうしても愛称のような印象があるので、ルーナと名付けることにする。
「セレン、シオンという名前はいかがですか?こう書いてシオンと読みます」
またララは難しいカンジらしきものと音の字を並べて言った。
「紫を意味するカンジなのですが、シとも読みます。私の瞳はアメジスト色ですから、音と合わせてシオン、いかがでしょう?」
「…うん、いいんじゃないかな。シオンとセレン、なんとなく対になっている感じもするしね」
「確かにそうですね!」
こうして、子どもたちの名前はシオンとルーナに決定した。せっかくニホンのカンジに由来して決めた名前なので、シオンには紫音、ルーナには月というニホン風の名前も残すことにした。公的に使うことはないし、本人たちにも伝えるのはずっと先の未来になるだろうが、ララがこだわって決めたという証を残しておきたかったから。
「シオン、ルーナ、これからよろしくね」




