結婚式
リアネン教の大聖堂。普段は聖職者と王族しか立ち入ることのできない場所。
今日に限っては、多くの貴族が集まる予定となっている。
「チークはこちらの色に致しましょう」
「髪飾りとブーケが到着しました」
「後ろのリボンを結び直しましょうか」
慌ただしい、新婦の控室。真っ白なウェディングドレスを纏った私は、朝から張り切っている侍女たちにもみくちゃにされている。
背中の真ん中ほどまで伸ばした長い銀髪は緩く巻いて編み込みのハーフアップにし、生花を刺して飾る。ベールをコームで固定して、髪は完成だ。この世界にベールをつける習慣はないので、ただの髪飾りの一部と化しているが、ちょっとした憧れでもあったので、どんなものなのか説明して作ってもらった。
グローブをつけ、白地にレースがあしらわれたアンクルストラップのハイヒールを履く。ドレスの長いトレーンに隠れるが、意匠にこだわったお気に入りだ。
「これをつけたら…完成です!」
「わぁぁ!」「お綺麗です!」
大きな姿見に写った私は、どこから見ても新婦だ。
時間には余裕を持って支度を始めたので、開式までまだ1時間ほどある。セレン様の準備は終わっただろうか。
ドレスに響くのを恐れて朝食をほとんど食べていないので、式が始まる前に軽食をつまむ。途中でお腹が鳴りでもしたら大変だ。一口サイズで作られたサンドウィッチを3つほど食べて、ゆったりと座って待つことにした。
外の様子を見てきた侍女は、続々と参列者の方々がお見えになっています、と言う。
今日の参列者は親しい方々、約30名だ。両家の親族はもちろん、国王夫妻やお祖父様をはじめとする錚々たる面々がお見えになる予定となっている。
式まであと30分となった時、控室の扉がノックされた。
「ララ、入ってもいい?」
「はい、大丈夫ですわ」
どうやら支度を終えたセレン様がお迎えに来てくださったらしい。
扉を開けて入ってきたセレン様は、私と同じ、真っ白な生地の衣装。普段は軽く整えているだけの髪も、今日はしっかりと手を加え、片方を耳にかけている。いつの日にか、その髪型が好きだと言ったことを覚えていたのかもしれない。
「とても綺麗、綺麗だよ」
「ありがとうございます。セレン様も素敵です」
セレン様は私の周りを一周ぐるっと回って見て、もう一度綺麗だね、と言った。
「セレン様も白い衣装なのですか?」
「あぁ、母上の助言でね。何やら素敵な意味合いもあるみたいだし」
お義母様は一体どこまで話されたのだろうか。「あなた色に染まります」という意味で選んだと伝えられていたらなんとなく気恥ずかしい。
「それじゃあそろそろ行こうか」
「はい」
セレン様の手を取り、チャペルまで歩く。入り口の大きな扉は閉じられているが、オルガンの演奏が始まったら聖職者の手によって開かれる。
「なんだか緊張してきました…」
「そういえば、王女殿下とパンセの結婚式の時にも緊張してたよね」
「そうでしたね、もうすぐ1年になりますが」
あの時は、友人の結婚式ということでこの上なく緊張していたのだが、今日は少し違う意味での緊張を感じている。初めて、大勢の前でセレン様との結婚を報告するのだ。リアネン様への誓いを立てるという意味でも、何か間違いを起こさないかプレッシャーがあるのは仕方がないことだろう。
「大丈夫。ララはララらしく、堂々と誓えばいいからね」
「ありがとうございます、セレン」
そして、チャペルの中からオルガンの音が聞こえてきた。ガチャリと音を立てて開く扉。私は覚悟を決めて顔を上げ、堂々と参列者に笑ってみせた。
歓声を浴びながら中央の花道を歩いて祭壇の前までやってきた。途中、号泣してせっかくのメイクが流れ落ちそうなジニア様を見て思わずふふっと笑ってしまったが。
落ち着いたら、セレン様との息を合わせてリアネン様の像へ礼をする。いつもしている淑女の礼ではなく、正式な場、例えば叙勲式などで行う、最上級の敬意を表す礼だ。
「それではご両人は誓いの言葉を」
「私セレン・カートレッタは、クララベル・カートレッタを未来永劫守り慈しみ、良き伴侶として尊敬し合い生きていくことをここに誓います」
「私クララベル・カートレッタは、セレン・カートレッタと一生を共にし、何時も助け、支え合って生きていくことをここに誓います」
私に新たな生を与えてくださったリアネン様を思い、目を閉じて開くと、そこにはリアネン様の姿が。
「お久しぶりね、鈴白歌音さん」
「…お、お久しぶりでございます」
突然のことに、頭の処理が追いつかない。先程まで大聖堂のチャペルにいたはずなのに、あの、白い空間に飛ばされている。
「心配しないで、時が経てば元の場所に戻るわ。今日は少しお話がしたくてここに呼んだのよ」
リアネン様はにこっと笑って言った。もしかして死んでしまったのかと心配していたので、ほっと胸を撫でおろした。
「あなたのことはね、ずっと気にして見ていたのよ。また死を選ぶことにならないか心配していたけれど、幸せに暮らしているようで良かったわ」
「光栄に存じます」
「これからの人生、まだまだ長いわ。悔いの残らないように生きて、最後に私と会う時には『生きて良かった』という言葉が聞けることを願っているわね」
「はい、必ず」
私はもう、約10年前の弱かった私ではない。生きる意味を見つけ、自分を愛していられるようになった。そして、自分以外をも、愛せるように。
「誓いはリアネン様の元へ記されました。ご両人の輝かしい未来へ祝福の拍手を」
拍手に包まれるチャペルの中で、愛するセレン様に笑顔を贈った。




