ビッグニュース
夏。この国の夏は日本ほど気温は上がらず、比較的涼しい日が多い。
無事、正式に王宮文官となった私は通常業務は問題なくこなせるようになってきた。騎士団に入団したセレン様も次期当主としての仕事と両立しながら日々頑張っている様子。それぞれの仕事をこなしながら秋に予定している結婚式に向けて準備を進める日々だ。
「お招き頂きありがとうございます」
「さぁ、座ってくださいな」
グレシャム公爵家の一室に集ういつもの4人組。今日は約2ヶ月ぶりの女子会である。
「なかなかお会い出来なくて心配しておりましたのよ?」
「申し訳ございません、カロリーナ様。文官としての仕事が忙しく、お誘いをお断りしてばかりでしたね」
まだ新人とはいえある程度のことは任されるようになったので、自分で判断しないといけないことも多く忙しい。カートレッタ家で開かれる社交以外には一切顔を出さないほどに。
「まさか社交開きの王宮夜会にも夫婦揃って欠席なさるとは思いませんでしたわ」
「そうですね、私はちょうどベイリャルからの使節を接待している時期でしたし、セレン様もその警備関連でお忙しかったのです。ご挨拶だけでもさせて頂こうと思っていたのですが叶いませんでした」
「やはり華の行政部は大変そうですね…」
カロリーナ様もジニア様もメイフェルも、特段変わった様子は無いので一安心だ。と思ったが、カロリーナ様のお召し物に小さな違和感を抱いた。
「カロリーナ様、今の社交界ではそのようなドレスが流行っているのですか?」
カロリーナ様がお召のドレスは、ストンと下にまっすぐ落ちるドレスで、胸下をリボンで止めるのでコルセットやパニエが必要ないのだ。以前は腰をキュッと絞る意匠のドレスをお好みだったので見慣れない。
「いいえ、今の流行は変わらずAラインドレスですわ」
ジニア様がすかさず答えた。さすが社交好きなだけある。
お好みが変わったのかしら?と首を傾げる3人を見てふふふっと笑ったカロリーナ様。真意が読めない。
自ら理由を明かすつもりはなさそうなので、色々な可能性を考えてみることにした
「…もしかして」
「「もしかして?」」
「ご懐妊、でしょうか?」
「「!?」」
私の言葉に、ジニア様とメイフェルの視線がカロリーナ様のお腹に集まる。
「さすが、万能の天才様ね」
肯定の言葉。まだカロリーナ様のお腹は見てわかるほど大きくなっていないので、もしかしたら、という可能性の話だったのだが。
「おめでとうございます!」
「「おめでとうございます!!!」」
「ありがとう。まだ関係者以外には知らせていないのに気がつくだなんてすごいわね」
「お腹を締め付けない形のドレスをお召になっていましたし、紅茶も私たちのものとは違うようでしたので」
妊婦は紅茶を飲んではいけない、とこの世界でも認知されている。実際は紅茶だけではなく、コーヒーなどにも含まれるカフェインが胎児に影響する場合があるのだが、絶対に飲んではいけないという訳では無いようだ。
「体調は大丈夫なのですか?」
「えぇ、幸いつわりは酷くないし、特段今日は落ち着いているのよ。この子がクララベルに会いたがったのかもしれないわね」
「御子様にそう思っていただけたのなら光栄の極みでございますわ」
医学が発達していないこの世界では生まれるまで性別も、人数も分からないが、どんな子が生まれてきたとしてもご両親に似て見目麗しく聡明であることだろう。
「私の話はこの辺で、最近噂のジニア嬢のお話を聞きたいわ」
「わ、私ですか!?」
最近の社交界事情に疎い私と、そもそも社交に興味が薄いメイフェルは何のことだかさっぱり分からない。分かるのは、何やらご存じの様子であるカロリーナ様にジニア様が詰められている状況だということくらいだ。
「何やら最近、金髪の美男子と観劇に行かれたとか?」
「……」
「3階のプレミアム席で楽しそうに歓談なさっていたとか?」
「で、デートじゃないですか!」
「そのあとはレストランでお食事までなさったようでしてよ?」
カロリーナ様からの口撃に負けじと口を閉ざしていたジニア様だったが、押し負けて小さな声で白状した。
「…婚約者、です」
「「えぇっ!!」」
「お、お相手は!」
「エビネ・ルアーラ様ですわ」
「「…えええぇぇ!?!?」」
令嬢らしからぬ大きな声を出してしまったが、今回ばかりは許して欲しい。セレン様の友人で、アカデミー生時代には私の護衛役をかって出てくださった方でもある、あのルアーラ様だと言うのだから。
「元々親しい関係ではありましたし、先の件で傷心していた私を気にかけてくださった方ですの。婚約は、そうですね…家格も釣り合いますし、もろもろ問題ないと判断された結果ですわ」
同じ伯爵家で幼い頃からの友人同士。似たものカップルという印象だ。
「ということで、今日は大きなニュースが2つもあったんですよ」
「王女殿下ご懐妊の件はパンセから内密に聞いていたけれど、エビネとブランカ嬢の婚約は全く聞いていないよ。今度出会ったら問い詰めましょうかね…」
「お、お手柔らかにお願いしますね?」
セレン様笑顔はとても意地悪な色に染まっていた。友人を想うゆえだと分かっているので止めないが、ルアーラ様がどうか無事でありますようにと願うばかりだ。




