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【完結】ネガティブ令嬢、今世こそ自分を愛します!  作者: らしか
第3章

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ただいま、おかえり

侯爵邸に帰り馬車から降りると、エントランスホールに帰宅したばかりのセレン様が見えた。ちょうど、ジャケットを侍従に手渡しているところだ。


「セレン様!おかえりなさいませ」

「ただいま…って、ララの方が後に帰ってきたでしょう」

「確かにそうですけど…帰ってきた夫におかえりなさいっていうのに少し憧れがあったので」

“普通”の貴族夫人なら、夫が帰ってきた時にはエントランスまでお迎えに行くのだろう。お母様だってそうだったし、お義母様がそうしておられる姿も見かけた。けれど、普通ではない私にそれはできないから、せめて。


「ありがとう、嬉しかったよ。おかえり、ララ」

「ただいま帰りました」




正式に行政部の一員となって制服をいただくまでの間、仕事着として使おうと思っている濃い紺のクラシカルワンピース。そのままお義父様たちとの晩餐会に参加するわけにもいかないので、私室に戻ってラベンダー色のドレスに着替える。ポニーテールに結っていた髪は痕がついてしまったのでそのままに。


「ふたりともおかえりなさい。アルは遅くなるみたいだから先に夕食を済ませましょう。あら、ララちゃんったらわざわざ着替えたの?いいのよ、気を使わなくて。お仕事の服装のまま来てちょうだいね」

「ありがとうございます。正式に制服を頂いた暁にはそうさせていただきますわ」

セレン様の母親が、理解あるお義母様で良かったと、何度思ったことか。


ダイニングルームのテーブルについて、上座の方を見る。当然、お義父様の席は空いている。いつもお優しくて、今日1日の出来事を聞いてくださる方が居ないというのは、なんだかとても寂しい。義弟のテルル君もアカデミーの貴族寮に入ってしまったのでなおさら。


「父上には明日、話をしてあげて?今日のところは僕たちに聞かせてくれない?」

「はい、もちろんです」

私の隣の席に座るセレン様は、私の表情の変化に気がついて微笑んで言った。さすがだ。


「今日は行政部の建物を案内していただいて、試用期間でお世話になる第1課の皆様にご挨拶しました。簡単なお仕事のやり方も教えていただいて、とても充実した1日でした」

「そっか、それなら良かったよ。仕事には慣れそう?」

「はい、皆様お優しいですし、試用期間中は難しい業務はありませんから」

セレン様の心配には及ばない。きっと、ヘリオドール様やゼーランディア様を頼りにしながら、少しずつ仕事を覚えていけるはず。



「そうだわ、あなたたちに伝えておかなくてはならないことがあるの」

「大切なお話、でしょうか?」

「えぇ、そうね」

晩餐も終盤、他愛もない話をしていた所にお義母様が口を開いた。真剣な口調と表情に、こちらまで緊張してくる。私は両手に持っていたカトラリーをお皿に置いて、お義母様の方を向いた。


「あなたたち2人が結婚式を挙げたら、侯爵位をセレンに譲ってカートレッタ領で生活しようと思っているの。王都にいると貴族の付き合いも多くて大変だし、アルもそろそろ騎士団を退団する年齢だし。もちろん、セレンたちの生活や仕事が安定するまでは、私たちが領地の管理をするわ」

お義母様はあっけらかんと言った。いや、そう聞こえるように言ったのだ。


いつか、この時が来ると分かっていた。おふたりとも若いとはいえもう40代。この世界では世代交代を考える年齢だ。平均寿命から考えると、60代で未だ元気に当主を務めているお祖父様が珍しいだけである。それでも、こんなに早く、急だとは思わなかった。せめて、あと数年あると思っていた。


「…分かりました。ですがこのような話は本来父上がなさるべきではないのですか?」

「セレンもそう思うでしょう?私も言ったのよ。それなのにアルったら『こういうのは苦手だ』とか言って逃げたの」

「そういうことでしたか。それなら詳しい話は父上に聞きます」

セレン様は実に淡々としていて、動揺の一端すら見せなかった。彼は次期当主としてこの時が来ることを覚悟していたのだろう。それに引き替え私は、そんなセレン様を支える妻としての覚悟が足りなかったのではないだろうか。


「セレンも、ララちゃんも、気負う必要は全くないのよ。私たちは健康だし、たまにはこちらへも帰ってくるわ。だから今はそうね、心づもりだけしておいてちょうだい」

「はい」

「さっ、この話は終わりね」

私も、お義母様のように立派な女主人になれるだろうか。社交に関して全く使い物にならない私のままでいいのだろうか。



「セレン、私、頑張りますわ。お義母様の次の侯爵夫人として皆様に認めていただけるような、そんな人間になれるよう努力します!」

「…うん、わかったよ。僕もララの隣に堂々と立てるように頑張るね」

ベッドルームに月明かりが差し込む夜、私たちは誓い合った。次世代を担う貴族として。

この時ばかりは、セレン様も無理はしないこと、とは言わなかった。

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