噂駆け巡る誕生会④
なぜだか最後までざわざわとした貴族たちの噂話が絶えなかった誕生会も無事、お開きである。時間にして5時間に満たない程度だったので、身体的疲労よりも精神的疲労の方が強く感じる。やはり、社交は好きになれそうにないし、セレン様と一緒に過ごすささやかな誕生会の方が好きだ。
「お疲れ様。疲れているならこのまま伯爵邸に泊まって行ってもいいと思うけれど」
「いえ、私の帰る家はもう侯爵邸ですから」
まだこの家を出て1週間ほどしか経っていないとはいえ、結婚した娘が戻ってきて宿泊するというのは両親としても複雑な心境があるだろう。そして何より、疲れているからこそ、セレン様の隣にいたいと思うのだ。
招待客の方達が全員お帰りになった後、侯爵家の馬車に乗って侯爵邸へと帰ってきた。私がほっと息を抜ける貴重な場所。
「おかえりなさいませ。お疲れ様でございました」
出迎えてくれた使用人たちにケープを預けながらただいま、と微笑む。
「ただいま。父上と母上はどちらに?」
「すでに主寝室におられます。お急ぎですか?」
お義父様とお義母様は、明日お義父様が朝早く出仕なさるとのことで先にお帰りになったのだ。
「いや、もうお休みかもしれないから明日にするよ。ララ、僕たちも戻ろうか」
「はい」
それぞれの私室に戻り、湯浴みをしてからベッドルームに向かった。まだセレン様が来ていないようなので、セレン様の私室を覗いてみる。いつもはセレン様の方が早いのに珍しい。
「セレン…?」
「…あぁ、ごめんね。今そっちに行くから待ってて」
執務机で書類と睨めっこをしていたセレン様は、微笑んでペンを置いた。ただでさえ忙しいセレン様だが、今日は誕生会にも参加したのだから、夜くらいはゆっくり休まなければ倒れてしまう。当然、彼だって生きている人間だ。
今日は私が普段から親しくしている友達やロザリンド伯爵家と関わりのある人たちだけではなく、あまり良い関係にない人も招待されていた。故に、セレン様の耳にも誹謗中傷の声は届いていたことだろう。幼かった頃に比べれば少なくなったし、直接言ってくるような人はいなくなった。それでも、根付いた噂や迷信はそう簡単に消えるものではない。そして、彼の傷ついた心が完全に癒えることもない。前世の私とお揃いだと言ったことが、少しでも彼の救いになっていればいいのだが。
「考えごと…?」
「っ、あ、いえ。今日はたくさんの方にお祝いしていただけて嬉しいなと思って」
前世では家族以外に私の誕生日を知っている人はいなかったし、今世でも大規模な誕生会は避けてきた。生まれてきたことを後悔したこともあった私だけれど、今はもうたくさんの人たちに囲まれて幸せに過ごすことができているのだ。それだけで、前世の私は報われたと思える。
「そうだね。人前で話すのが苦手なララとは思えないくらい、堂々としてたよ。なんだか少し、遠い存在になってしまったみたいで寂しかったな」
「ふふっ。何を言うかと思えば…私は今も昔もずっとセレン様の隣にいますからね」
私も、セレン様が社交界でうまく立ち回っている姿や、アカデミーの式典で代表挨拶をしている姿を見て、私とは違う世界で生きる人かのように感じることがあった。きっと、今のセレン様が言っているのはそれと同じような感覚なのだろう。
ベッドに横になって、セレン様の腕に自分の腕を絡める。最近のマイブームだ。
「セレン、私の居場所はいつだってセレンの隣ですからね」
今世も、来世も、来々世だって。
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以下、国王目線(クララベルの誕生会後 王宮の一室)
クララベル・ロザリンド改めクララベル・カートレッタ。彼女が持つ地位は多岐にわたる。
ロザリンド伯爵の愛娘。大叔父上の(形式上の)孫。王立アカデミー中・高等部Sクラス。来春からは行政部所属の王宮文官。万能の天才。そして、セレン・カートレッタの妻。
「もう結婚してしまいましたし、アイドクレース公爵にもああ言われてしまいましたから諦めるほかありませんね」
「あぁ、残念だが。あの2人は幼い頃から相思相愛だったから一か八かの願いではあったしな」
今年25になる息子の妃に、という計画は、セレン・カートレッタをはじめとする「クララベルを守る会」のメンバーによって阻止された。博識で教養もあり、容姿も美しい。社交を苦手とするところはあるが、それを上回る魅力がある女性だ。
「外国に出ず、臣下として残ってくれただけ良かったと思うしかありませんね。無事に王宮文官の試験にも合格しましたし」
もしも、あれだけの逸材を他国に逃していたらこの国に及ぶ損害は計り知れない。そんなことになっていたら…と想像するだけで恐ろしい。彼女が持っている能力は、今までの学問を覆すものもあるのだ。天才、と言う言葉では収まらない、世界を変える人材。
次世代のベスビアナイト王国が安泰であることを願うばかりだ。




