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ペットの喪中はがきに非常識と返した人がいるとニュースで聞いたのでモヤモヤして書いた

掲載日:2021/12/05

 ペットの喪中はがきに対して、「非常識、社会性身につけた方がいいよ」と返す人がいるそうで悲しくなりました。どうか嘘記事であってくれ。

 自分ならペットを失って悲しんでる人にどれだけ寄り添えるか考えてたら短編小説になりました。

 主人公はたぶん大学生くらい。あんまり考えてないけど犬の平均寿命考えたら高校生じゃちょっと足りないかなと。ちなみに筆者はハムスターしか飼ったことありません。ペットの喪中はがきは出しませんが出す人を理解したいとは考えています。

 先週。

 ウチのサクラが死んだ。大型犬にしては長生きだった方だと思う。毎日朝夕の散歩がなくなり、時間が余ってその度サクラのことを思い返してしまう。

 自惚れじゃなければ一番懐いていたのは僕だった。僕も、サクラの事大好きだった。


「元気ないね、(あお)


 付き合って半年の彼女とデートの約束をしたのはサクラが死ぬ前。気が晴れるかもと外出してみたけど、全然そんな気分になれない。


「ごめん、彩葉(いろは)。やっぱり今日はそんな気分になれない」


 こんな気持ちで会うのはやっぱり間違いだった。それに彩葉にまで『早く吹っ切れ』みたいなことを言われたたくない。


「サクラちゃんのこと?」

 

「……うん」


 彼女には、もうサクラが死んだことは伝えてある。彩葉も犬好きだったから、何回か三人で散歩だってした。


「ちゃんと弔えた?」


「一応。葬儀屋の人が来て、火葬……しなきゃいけないらしくて。変だよね。そうしないと犯罪になって損害賠償を請求されるって」


 両親に説得されて首を縦に振ったけど、そんな理由でサクラを連れて行かなくたって良いじゃないか。


「なるほど」


「なるほど?」


「あー、うん。こっちの話。それで、今日は私の行きたいところで良いんだよね」


 行きたい場所なんてなかった。何処にも行きたくなんてなかった。僕の心は、ずっと止まったままだ。

 さっき言った通り、外出したのは失敗だった。


「ごめん、やっぱり帰る」


 バシッ。


 彩葉は、強引に帰ろうとする僕の手を掴み、離さない。引き止められた訳だけど、僕は今日も楽しめる気がしない。楽しみたくない。


「待って。今日は悪いけど付き合って貰うよ。もっと早くても良かったけど、蒼に遠慮して今日まで引き伸ばした。もう待てない」


「だから! そんな気分になれないんだって!」


 声を荒げて無理矢理手を振り払う。

 こんなことしたい訳じゃない。でも、させたのは彩葉の方だ。


「怒鳴っても無駄だよ。今日は絶対、私の予定に蒼を付き合わせる」


「どこ行ったって同じだよ。何もしたくないんだ」


 格好悪い。こんなんじゃ彼女に愛想尽かされるのも時間の問題だ。でも、それも仕方ない。気力が湧かない。


 でも


「……って、…………い」


 少しだけ聞き取れたその言葉は、僕の心を動かすのに十分だった。


「私はまだ、ちゃんとサクラちゃんとお別れ出来てないの! 蒼がいないと駄目なの!!」


 今日初めて彼女の顔を見た。

 少しだけ涙を溜めて潤んだ目が真っ直ぐ僕を見ている。


「やっと目が合った」


 今にも泣きそうな癖に、笑って見せる彩葉の強さにどうしようもなく惹かれた。






「思い出巡り」


「もう何度か一人では来たんだ。だけど私とサクラって、蒼を通してしか接点なかったじゃない。あんまり弔えてる気がしなくてさ」


 僕とサクラの散歩コースにある近所の公園。

 サクラが死んでから一度も来れなかった。


 よく散歩仲間の人達が連れてる子と遊んでもらってた。サクラ、身体は大きいのに人見知りで、最初は全然仲間に入れてもらえなかったんだよな。


「なんて嘘。一人だと寂しすぎてすぐ帰っちゃったんだ」


 公園のベンチに並んで座り、サクラとの思い出を振り返る。


「ねぇ覚えてる? 私フリスビー投げたら明後日の方向行っちゃってさ。サクラ、絶対取れるような軌道じゃなかったのにすごい勢いで走っちゃって。追いつけなかったけど、それでもフリスビー私のところまで持って来てくれて。嬉しかったなぁ」


 もちろん覚えてる。

 彩葉と付き合うようになった時にはサクラの人見知りはとっくに治っていて、初めて彩葉と合わせた時に彼女に向かって飛びついたんだ。まるで彩葉がサクラに襲われているようだった。


「僕も最初は真っ直ぐ投げられなかったよ。でもサクラは全部取ってきてくれた」


 思い出が、溢れてくる。

 でも、もうこの世界にサクラはいないんだ。

 感傷に浸りながら彩葉とサクラの事を話す。彼女が知っている話も有れば、初めて話す話も有った。


「それじゃ、次行こっか」


 一時間もすれば、話が途切れる瞬間は来る。本当はもっと話したいこといっぱいあったはずだけど、自然と立ち上がることができた。






「ここって」


 サクラも一緒に入れるタイプの喫茶店。

 何度か来た事がある。でも、彩葉と来たのは一回のはず。


「外せないよ。ここも大事な思い出の一つだもん」


 外で待つのもアレなので、店に入ってケーキと飲み物を注文。前来た時と同じメニューだ。


「犬でも人間でも食べれるケーキ。前食べたのが季節限定とかじゃなくて良かったよ」


気持ちの整理ができなくてまた黙り込んでしまった僕の代わりに彩葉が注文してくれた。あの時のメニュー、覚えていたんだな。それだけのことが嬉しかった。


「サクラ、興奮しっぱなしだった。なんか恥ずかしかったよ。普段もそれなりにいいもの食べさせてるつもりなんだけど、すごい喰いつきで、本当においしそうにガツガツ食べてた。喉詰まらせないかひやひやだったよ」


 ケーキとコーヒーが運ばれてきて、食べてるうちに話せるようになった。

 昨日までは溢れてくる想い出に蓋をするだけだったけど、今日はちょっと違う。彩葉のおかげだ。


「うーん、やっぱり微妙。ギリおいしいかな。飲み物でカバーする感じ」


 サクラと僕らでは、必要な栄養素が異なっている。人間と同じ調子で塩分・糖分を摂ったらすぐに病気になってしまう。


「人間の優先度って低くていいんだよ。ここは、そんな人たちが集まる場所なんだから」


 むしろサクラを連れてない僕達が異端と言っていい。

 周り見ても、人間だけで来てるグループなんて存在しない。


「むしろサクラちゃんなしでよく入れて貰えたよね。入店できるかちょっと不安だったんだ」


 また、サクラとの想い出を振り返る。なんか、泣きそうになった。

 ずっと目を逸らしてきた現実に、ようやく意識が追いついてきたのかもしれない。止まっていると感じていた時間は実はずっと進みっぱなしで、僕にはなんの干渉もできないということを思い知らされた。サクラがいない世界で、これから生きていかなきゃいけない。





 さっきの喫茶店で何故かテイクアウトを買った彩葉が案内するのは、僕が全く知らない場所。

 ここ、サクラも僕も来たことないはずだけど、何をするんだろう。想い出巡りはもう終わったのかな。


「やっぱり、ここがどこか分かってないんだ」


 電車の次はバス。

 電車の距離は大したことなかったから近場ではあるんだけど、入り込んでる所で何があるか知らない場所。サクラとの散歩で自分の街の事は結構色んな場所を知ってるんだけど、何処に向かっているのか検討もつかない。


「どこに行く気? そろそろ教えてくれても良くない?」


「うーん、もう言ってもいいかな。次、降りるよ」


 瞬間、バス停を通り過ぎて次のバス停の名前が前の方に表示される。行きたい場所が分かってしまった。


 ――次、○○霊園前です


 サクラのお墓がある場所だ。






「……なんで、この場所知ってるの」


 手を合わせて祈る彼女の斜め後ろから問いかける。さっきテイクアウトしたケーキをお供えしている。このためだったんだ。

 おかしい。教えてない、というより霊園の名前なんてここに着くまで忘れていた。もちろん僕はここに一度も来れてない。ここに来たらサクラが死んだことを直視しないといけなくて、僕はそれができない。


「教えて貰ったんだ。蒼のお父さんとお母さんに。蒼のこと心配してたよ」


 彩葉は祈り終わると立ち上がって振り返り、それに合わせて僕の視線も上がっていった。


「蒼は、手を合わせないの?」


「……」


 言葉を返すことができない。

 僕はずっと、彩葉の後についていただけで、サクラの前に立つことすらできていない。足がこれ以上、前に動かない。認めたくない。


「言っとくけど、私は蒼の気持ちなんて分からないよ。黙っていても伝わるなんて幻想だと思ってる」


「そ、れは」


「別に私達、十年来の付き合いって訳でもない。恋人だから通じ合えるんじゃないんだよ。言葉を交わして分かり合ううちに通じ合えるようになっていくんだ」


 幻想という言葉が胸を貫く。

 でも確かに僕は、言わなくても分かってくれと周りに求めていた気がする。僕の気持ちなんて、僕にだって分からないというのに。


「私と蒼、ペットを通して話すようになったじゃない。でも、途中からズレは感じていたよ」


 彩葉は今ハリネズミと一緒に暮らしている。たしか前はハムスターもいたはずだ。

 小動物系が好きみたいで、動物園にいったらシマリスとか兎が目当てなタイプ。


「例えばさ、蒼はペットって言葉嫌いだよね。でも私はペットを家族って言う方が違和感あるんだ。そりゃ、比喩的に末っ子とか言うことはあるけど、それだけ」


「え……」


 同じ動物好きだと思ってた。

 でも、彼女の視る世界と僕の視る世界は全然異なっていた。


「ペットが死んで悲しいってのは分かるよ。だけどそれを引き摺るのは分からない。私にとっては死んで弔うまでが一つの遊びだった。だから私にとってペットはやっぱりペット。家族じゃない。どちらかと言えば娯楽の方が近いかな。ちょっと乱暴だけど、もっと言い方あるんだろうけど、言葉を選ぶと蒼に伝わらなさそうだったから」


「あ、そび?」


「愛がないってことは絶対ないよ。冬眠しそうな時は無断でもなんでも学校サボったし、あれ以降温度管理は毎朝毎晩やってる。就学旅行とか出発前両親に頼んだだけじゃ安心できなくて毎日電話した。大切な存在なのは間違いないよ」


 ハリネズミの冬眠や夏眠は命に係わる大事件。

 そのため、温度管理用の大理石の板やヒーターなんかが必須なんだそうだ。


「でもたぶん、今の子が死んじゃってもふさぎ込んだりはしないかな。いや、三日くらいは外に出れないかもしれない。でも一週間くらいしたらきっと思い出してる時間の方が短くなってる。サクラちゃん弔うのを待てなかったのも、今日を逃すと一生できないと思ったからだよ。私ならきっと、三ヶ月もしたら次のペット飼ってる」


 彩葉は僕と出会うより前にハムスターを亡くしてる。きっと、もう通って来た道なんだ。

 でも、次を考えることなんて僕にはできそうもない。


 そんなことを考えられる彩葉が、怖い。


 自然と一歩、後ろに下がってしまった。


「でも、貴方は違うんでしょう」


 その通りだ。僕はそんな非情な人間なんかじゃ



「言っとくけど、私にとってはサクラに手を合わせることもしない蒼の方がよっぽど薄情だからね!」



 彩葉に言われて自分の行動を振り返る。

 僕はこの一週間、何もできていない。

 これじゃあ怒鳴られて当然だ。


「さっき言った通り、ペットを亡くした虚無感は分かる。何も手につかないのだって当然。私はその気持ちが持続したりなんてしないけど、想像することはできるよ。でもさ、自分のペットが死んで、手も合わせない人と一緒に生きることはできない」


 言ってる意味は分かる。彩葉が怒っているんだと理解できる。

 確かに、一ヶ月前の僕が今の僕を見たら軽蔑すると思う。だけど、手を合わせるという事はサクラのいない世界を肯定するということ。

 それがたまらなく嫌だ。


「私の考え方は気に入らない? 一緒に過ごすことはできない?」


 でも、本当はもう分かってる。

 サクラだって、本当はこんなこと望んでないはずなんだ。

 それが分かったのは、今日彼女と一緒にサクラとの想い出を振り返っていたからだ。彩葉はずっと、僕に前を向けと伝え続けていたんだ。


「……受け入れ、られない?」


 僕はその日、初めてサクラに手を合わせ、その死を悼んで弔った。






 サクラのお墓の前で泣き続ける僕が立ち上がるまで、彩葉はずっと待っててくれた。

 確かに僕の想いに寄り添ってはくれなかったけど、それでもちゃんとそばにいてくれた。慰めも励ましもなかったけど、それでも一緒にいてくれた。


「サクラ……」


「ねぇ、あれ買わない?」


 彩葉が指した先に会ったのは、霊園の受付に売られているはがき。

 正確には物が売られているんじゃなくて、『注文承ります』とある一つの商品。


「喪中はがき、出すならすぐじゃないと」


 季節は十二月に入ったばかり。

 年賀状を出すのを控えてもらうように伝える喪中はがきは、今年中、できるだけ早く出す必要がある。


「でも、変じゃない?」


「そりゃ変だよ。私なら出さない」


 僕の不安はバッサリと切り捨てられた。

 出そうという気持ちが萎えてしぼんでいく。


「でも、私が蒼だったら誰になんと言われようが出すよ」


「え?」


「だって悲しみに暮れている時に、年賀状みたいな楽しい雰囲気のもの見たくはないもの」


 いつだって彩葉はまっすぐで眩しい。

 さっき僕の気持ちが分からないと言ったばかりなのに、僕の気持ちを言い当てられた気がした。


「非常識と言われるかもしれない。ペットくらいでと諭されるかもしれない。でもそんな言葉に耳を貸しちゃ駄目だよ。だって、蒼の今の気持ちは、一生大切にしないといけないものなんだから」


 今の気持ちを、大切に?


「サクラが蒼にくれたものは全部全部かけがえのないもので、蒼は今、それを背負って前を向くって決めたんでしょ。少なくとも、私にとって弔うっていうのはそういう儀式なんだ」


 彩葉は最初からサクラを弔うことを目的と言っていた。僕に弔えたかどうか聞いていた。それは、葬儀みたいな形式的なものだけじゃなくて、もっと個人的なもの。


 ペットと呼んでいた。遊びと呼んでいた。

 でも、彩葉の方が僕よりもずっと動物たちに本気で向き合ってる気がした。


「彩葉」


「何?」


「ちょっとデザイン選ぶの手伝ってくれない? 一緒に選びたいんだ」


 言葉を紡ぐ。

 意思を伝えるために。


「いいよ。時期外れだけどサクラって名前なんだから桜の花びらが散ってるものとかがいいと思う」


「そこは咲いてるところがいいなぁ」


 僕と彩葉はいろいろと考え方が違う。それでも彩葉は僕を尊重してくれたんだ。僕にはもったいない人だと思う。

 今回僕は支えて貰うばっかりだった。


「そもそも私達って年賀状の文化ないけど何枚買うの?」


「んー。彩葉は受け取ってくれる?」


「もちろん」


 今日、彩葉のおかげでサクラを想いながら前を向くことができた。その恩を少しづつでも返していきたい。

 彩葉とは、ずっと一緒にいたい。だから真っ先に思い浮かべた手紙のあて先は、一番近くにいる人間だった。


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