恋愛小説のヒロインは私には向いていない。
私は伯爵家次女リンダ・グリーンハウ。
次女で地味な私だが、婚約者はいる。
一年程前、父が取り引き先のワインバーグ伯爵家と、上手いことご縁を結んでくれたのだ。
やや政略的な側面のある婚約ではあるが、婚約者であるローマン様は優しく男らしい方。彼のことはまだそこまで知らないが、それなりに好意は抱いている。きっとこの先地味だが穏やかで、普遍的な幸福を紡いでいくのだろう。
──そう思っていた矢先のこと。
何故かローマン様の弟、デリック様から呼び出された。
「申し訳ない!」
「ごめんなさい! リンダ!!」
呼び出された貴族御用達の喫茶店の個室にて。私は婚約者のローマン様に頭を下げられていた。
その傍らでやはり頭を下げる、私の親友ノエル。
──結婚一週間前のことである。
ノエル・ブルック子爵令嬢……彼女は私と同様に地味な女の子。『類は友を呼ぶ』と言うが、同じ匂いのする彼女とはすぐに仲良くなった。
地味な私達の趣味は読書ですこぶる地味。彼女とは本の趣味も合う。
ヒロインやライバル、そしてヒーローがいちいち美形な恋愛小説。その貸し借りをしながら『地味な私達には無縁の世界ね……』と感想の最後に呟くのはふたりの間での鉄板ネタであり、最早お約束。
その『無縁の世界』の扉が今まさに開いてしまい、私はただただ遠い目になった。
(全く嬉しくない……)
そう、全く嬉しくない……だが実は、ある程度予想してたりする。
結婚式のこともあり、親友であるノエルをローマン様に紹介した1ヶ月前。私は人が恋に落ちる瞬間というのを、初めて目の当たりにした。
それが婚約者と親友だったことに動揺を禁じ得ず、これからの不安に夜も眠れない程。
8時間が6時間になったくらいには。
──元々楽観的なのである。
「えーと……デリック様?」
私は一先ずふたりを置いて、弟のデリック様に話を聞くことにした。その方が手っ取り早く話が進む気がしたから。
「困ったことに『駆け落ちをする』などと言い出したのを説得し、今に至ります」
「ああ、成程……?」
成程でもないが、なんとなく理解はした。
ノエルは私と同い年の妙齢女性。
だが婚約者はいない。
娘を溺愛する彼女の両親は『ノエルにはなるべくいい相手を』と考えて慎重に動いていたところ、早期婚約の機を逃していた。いい加減本腰を入れて動かねばというタイミングで、度々悪天候に見舞われたブリック子爵領。なんと主とする農作物が三年続いての不作……ドレスだのなんだのにかける金もそれを考える余裕すらもなく、ノエルが社交の場に顔を出すことは殆どなかった。
我がグリーンハウ家も融資をおこなっていたが……それでもどうにもならなくなったところに、父よりも歳上のお金持ち男性からの釣書が。両親はノエルに謝罪しながらそれを渡したそう。
望まない婚姻であれ、領民の為なら受け容れるのが貴族令嬢としての本懐……とは思っていたところで、気持ちはついていかなかった。
「せめて親友の結婚式が終わってからに」と見合いを延ばすくらいしかできないノエル。
まだ相手に会っていないが、会ったらおそらく終わり──
そんな時、運命の人と出会うノエル。
(……小説だとそんな感じかしら)
妙に冷静にそんなことを思う。
デリック様の話は大体私の予想と合っていた。──違うのはこの後。
「兄は机に『家督を弟に譲るので婚約者をすげ替えろ』という旨の手紙を残し、駆け落ちする気でいたのです。 もっともそれが『駆け落ち』だとわかったのは、捕まえて問い詰めてからですが」
……なんと!
「『結婚を目前に婚約者に逃げられた令嬢』という私の役どころを回避する為ね!」
気が利いているような、そうでもないような。杜撰な優しさがいかにもローマン様らしい。しかしここにきて自分までが、また違う小説の主人公のようになるとは予想しておらなんだ。
「……仰る通りではありますが、駆け落ちだなんて。 まず謝罪と相談が先でしょう? 全く無責任な」
「まあまあデリック様、そんなに怒っては眼鏡が曇ってしまいますわ」
「貴女こそ怒っていいのですよ? それなのに……随分明るい。 まあ……悲壮感に溢れているよりはいいですが」
デリック様は眼鏡を上げながら、やや投げやりにそう言う。私の妙なテンションに呆れたのだろうか。
こちらも突然のことに戸惑ってはいるのだけれど。私なりに。
ふたりは駆け落ちしようとしたが、それは秘密裏の駆け落ちだそう。
ふたりが駆け落ちしたとなればブルック家の叱責は免れず、今の状況だと最悪没落する。
また、私にも『親友に婚約者を取られた女』というレッテルが貼られてしまう。
どちらも避けたかったようで、残された手紙には『冒険への夢が捨てられない』等と書かれており、あくまでも『ローマン様の我儘』というていで押し通そうとしていたようだ。
ノエルは私の結婚式を見届け、修道院に向かうフリをして途中で逃げるつもりだったらしい。
「うっ……ううっ……ごめんなさい……ッ」
「泣かないで、ノエル。 ほら、なんだかまるで小説みたいじゃない……」
泣かせる意図ではなかったが、ノエルは余計に泣いてしまった。
いや、場を和ませようとしただけよ?
嫌味じゃないのよ?
「リンダ……いや、リンダ嬢、申し訳ない。 貴女となら穏やかな家庭を作れると思っていたし、貴女」
「いえ、結婚前に仰ってくれて良かったです。 ふたりが惹かれ合ったのは、私にもわかりましたから」
この件で私に悪い所がなかったのは当然なので、ローマン様の言葉は遮る。
正直に言うとあまり怒りはないが、立場上怒らなければならないような気もしている。なので、批判も含めた素直な気持ちを続けて述べた。
ノエルは親友であるし、ブルック家のおじ様おば様とも仲良くして頂いている。
結婚してからも縁は続くだろう。ノエルの不本意な婚姻を阻止する為にもブルック家の領民を救う為にも、結婚したら『ワインバーグ家からも少し融資をして頂けないか』、或いは『私への支度金を使用していいだろうか』などのお願いをしたと思う。
ふたりの性格を考えると裏でコソコソ会うとは考えにくいが、そうなって嫉妬するのも、それを疑うのも嫌だ。ましてや微力なれどなんとかしてあげたい、と動いてしまったとなれば、裏切られたりその想像をした時の割り切れなさは増大するだろう。
だが、ノエルが領の為に不本意な婚姻をするのを黙って見ているのも……それはそれで罪悪感に苛まれるのだと思う。
「ローマン様への情が深くなる前で良かったです。 結婚していたら、いくら楽観的な方である私と言えども目も当てられませんわ……」
ただし、だからこそふたりが逃げるという選択をしたのは理解できるし、その中に含まれる私への気持ちもわからないでもない。
『バレなければいい』と言うのは狡いが、逃げた場合ローマン様とは当然結婚しないし、もう会うこともないのだ。なら知らない方が幸せであるように思う。
とはいえ、一方的過ぎる。
更に言うと、それ以上にデリック様の扱いがあまりにも杜撰である。
「それは……デリックなら喜ぶだろうと」
「兄さん!」
「そりゃまあ次男ですもの……家督相続は有難いでしょうが、婚姻は家同士のことですよ? 拗れる前にきちんと話し合わなければいけない案件です。 でないと父がへそを曲げますわ」
貴族の体面としては、『ウチの娘を軽んじられた=ウチを軽んじた』に繋がる。
そうなるとまとまるものもまとまらない。
「デリック様が捕まえてくれて良かったですね。 これからのことを建設的に話し合いましょう?」
「リンダ嬢……厚かましいお願いですが、私が婚約者でも構いませんでしょうか」
幸いまだローマン様との付き合いは浅いし、清い交際。なんならノエルのへの情の方が圧倒的に重い。
デリック様との付き合いはローマン様よりもっと浅いが、特に悪い感情も抱いていない。
……というか、『クール眼鏡』の印象しかない。
「それはもう、デリック様が宜しければ。 ただ、ワインバーグ伯爵家を継いで頂かなければ困りますが」
結局のところ、問題はそこに尽きるのだった。
話し合いの結果、『デリック様が私に一目惚れ、努力の末次期当主の座を勝ち取った』というかたちに落ち着いた。
もともと家に残り、家令としてワインバーグ伯爵家を支えるつもりだったデリック様なので、領地経営的には問題ないらしい。相続についても変更書類さえあれば問題ないそう。
ノエルとは、デリック様の気持ちを知って悩んでいたローマン様と偶然出会い、恋に落ちたことになった。そして、それがきっかけでローマン様は弟を後押しすると決めた……という筋書きだ。
(まあ、『爵位の為に兄の婚約者を狙った』などの噂は出てくるだろうけど)
筋書きが決まると、デリック様はローマン様とノエルを連れて伯爵家に戻ると言う。
ふたりはデリック様に言われ、書き記したメモの筋書きから舞台設定などを細かく決めて取り繕うことに専念させられている。
ヒロインとヒーローの舞台裏は、なんとも現実的。
「両親に話した後、グリーンハウ家に説明しに参ります。 今夜は無理でも、明日までには」
「時間がないとはいえ……大丈夫ですか? 私とローマン様はそれなりに、くらいには仲良くしておりましたが……」
なにぶん設定に大分無理がある。
『クール眼鏡』の彼が、大した交流のない兄の婚約者(※勿論私)に密かに懸想とか。
役者としての彼が心配だ。
だが──
「ええ、そこには自信が。 これから全力で貴女を口説かせて頂きます」
「──」
クール眼鏡は眼鏡を光らせ『フッ』とクールに笑い、熱烈な言葉をサラッと言う。
今後の為とは言えそんなことを言われると、まるで──
(私がヒロインみたい……)
──しかし私はヒロインに非ず。
「……はは」
その台詞に返す気の利いた言葉など持ち合わせておらず、ただ引き攣った笑いを漏らすことしかできなかった。
そして翌日。
デリック様は大きな花束を持って現れた。
婚約者であるローマン様もいるけれど、私に捧ぐには相応しくない大袈裟な褒め言葉を宣いながら花束を贈るのは、弟のデリック様の方。
その光景に呆気に取られた様子の父に、簡潔にザックリ纏めた結論だけをローマン様が告げた。
ある程度までは納得してくれた様子。
そして、ここからが勝負どころ。
「急な話で申し訳ございません。 私自身、この気持ちは胸に秘めたままお嬢様と兄を見守り生涯を終えるつもりでおりました。 まさか兄がこの想いに気付き、悩んでいるとも知らず……」
「う、うむ……しかしローマン殿はそれでいいのか?」
「ええ、昔からデリックの方が優秀なのに、なにかというと私を立ててくれた弟です。 私が気付くのがもっと早ければ、こんなギリギリにならずに済み……悩むこともなかった。 お嬢様は素晴らしい女性ですが幸いまだ私の方は弟と違い、穏やかに情を寄せておりました。 家族となるならそれはそれで嬉しく思います」
ふたりとも、流石に台本を作り練習してまで仕込んだだけのことはある。
このおかげで呆気ない程簡単に、婚約者変更は決まった。
しかし、滞りなく話を進める為とは言え、やたらと褒められて臀部がムズ痒い。
私達は教会での結婚式を控えている為、王都のタウンハウスで過ごしている。
この国の伯爵位以上の貴族の婚姻は王都の中央教会と、その後にメインとなる各々の領地でお披露目的に結婚式をやるのが普通。その為、王都に貴族が集まる社交シーズンは、同時に結婚式シーズンでもあるのだ。
教会の式はお披露目である領地の結婚式とは違い、神に誓う厳かなもの……家族以外は呼ばなくて良い。
領地の結婚式が先でなくて助かったとばかりに、デリック様は忙しい合間を縫って私に会いに来た。
伯爵家ではあるが、タウンハウスは邸宅ではなく連なった建物の一角。なのですぐに私達のことは、他の貴族の方々に印象付ける事ができた。
賢いやり方だが、少し恥ずかしい。
ほんの僅かな時間、私に会うためだけに足繁く通い、小説でしか読んだことのないような甘い台詞を毎日掛けられていると、ウッカリ誤解してしまいそうになる。
しかもよく見ると、デリック様はなかなか整った顔をしている。これはいよいよ小説のヒロインになってしまったようで、気恥しさがマシマシである。
ノエルと私は似ていると思っていたが、意外と似ていなかったらしい。恋愛小説は好きだが、私は自分が小説の中の人のようには振る舞えそうもなく、どうにも面映ゆいというか……
──そんなこんなで結婚式当日。
慌ただしく用意をしている最中、控え室に何故かローマン様が現れた。
確かに義兄になる人ではあるけれど、弟であり新郎のデリック様も当然用意がある。タイミング的に不思議には思ったものの、言付けかなにかかと思い、お通しした。
「忙しいところ申し訳ない。 あまり時間は取らせないが、伝えたいことがあって」
「どうされましたか?」
「作り話の件だが……デリックが貴女に好意を抱いていたのは事実だ。 順番がおかしくなった感は否めないが」
「……はい?」
ローマン様は、なんだかよくわからないことを言い出した。時間が迫っているからか、理解していない私を無視し、彼は話を続ける。
「貴女はよくノエルの話を私に聞かせてくれていたね。 貴女は覚えているだろうか? 『親友である彼女を紹介してくれないか』と私から言い出したことを。 あれはデリックの貴女への好意から、将来に不安を抱いた私があいつに女性を紹介しようと思ってしたことだったんだ」
「──……ええ?!」
ローマン様曰く、デリック様との仲は良く、元々ふたりで家を支えていくつもりだった。だから当主が交代になるのは構わなかったものの……彼の気持ちに気付くのが遅すぎたのだという。
デリック様は気持ちを素直に打ち明けるタイプではないので、気付いたところで説得し、立場の交代を了承させるには時間が足らないと感じたらしい。
そしてこの時点で、ローマン様は私にそれなりの好意を抱いていた。おそらく、私と同じくらいには。
弟の性格上気持ちを打ち明けるとは思えないが、家令として家に残られてなにかあるのも、なにもなくてもそれを疑うのも嫌だ……
……あらやだ、これって私の想像と似ているわね。
「貴女から話を聞いていた彼女は、貴女と似た感じの女性だというから……ふたりが上手くいけばこの先も安心だろうと。 まさか自分が恋に落ちるとは思っていなかったんだ……」
「…………」
あまりのことに言葉が出てこない。
「デリックは打ち明けるつもりもないだろうし、今改めて貴女の心を手に入れようとしているが……これからのことを考えたら、耳に入れておいた方がいいだろうと思って」
「そう……ですか……」
(えっじゃあちょっと待って?)
「──……あの、父の前での言葉とか」
「本心だろうな」
「毎日逢いに来てくださったのとか……」
「嬉嬉として出かけていった」
(エ────────!!!!?)
「そそそそんな方でしたっけ?!」
私の知る限りではあるが、優しいが若干直情的なローマン様とは違い、デリック様は眼鏡キャラらしく冷静沈着……要は『クール眼鏡』である。
仕方なくやっていたのだ、とばかり思っていた。
ローマン様にそう語ると、デリック様の性格についての部分の考察を「それなりに正しい」と肯定しつつ『仕方なくやっている』という部分についてはハッキリと否定した。
「元は私のせいなので少し憚られるが……最初から貴女とデリックだったら、あいつの性格上大っぴらに好意を示すことに躊躇していたかもしれない。 第三者へ見せつけなければならないという理由ができたことで素直になれたんだ。 だからこそ貴女が建前を事実と誤解してしまうのでは、と思って……ああもうこんな時間だ。 いや、失礼した」
そう言うとローマン様はダメ押し的に『デリックは貴女がとても好きだ』と言って部屋を出ていった。
(──……信じられない)
申し訳ないが、信じられない。
こんな地味な私にそんなラブロマンスが起こるとは思えなかった。
しかし……同様に地味な筈のノエルが、劇的に恋に落ちる瞬間を目にしている。
(……でもでも! やっぱり信じられない!! もう! ローマン様ってば余計な情報を──!!)
『この気持ちは胸に秘めたままお嬢様と兄を見守り生涯を終えるつもりでおりました』
『これから全力で貴女を口説かせて頂きます』
否が応でも思い出してしまう、とんでもない台詞……これが事実なら……それはもう、とんでもない。(語彙消滅)
「お嬢様、お綺麗です!」
「へ?」
その言葉に我に返る。
放心している間に、いつの間にか用意が終わっていた。
「素敵よリンダ……うう、おめでとう」
控え室に母が入ってきて、涙ぐみながら寿ぎの言葉を紡ぐ。
(あれ……私、結婚するのね……?)
今更な自問自答。非常に今更な。
『──誰と?』
そしてノックと共に、デリック様が現れた。
「失礼──」
「──……」
「……」
何故か、
何故かデリック様の燕尾服姿を見て、まだ鳴っていない筈の教会の鐘が鳴った。私の耳の中にだけ。
(──いやいやいやいや?!)
釘付けになった視線を慌てて下げる。
地味な私は地味な私らしく、地味に少しずつ相手を好きになっていくものだと思っていたのだが……
(これじゃ、とんだ『チョロイン』じゃない!)
好意を示されたらアッサリ落ちるヒロインを俗に『チョロイン』と言うが、まさにそれだ。
だがまだ信じてはいない。
ローマン様の言うことが勝手な推測である可能性もあるし、やたらとデリック様がカッコよく見えるのも正装のせいかもしれない。
「──デリックさ……」
気を取り直して顔を上げると、
「…………」
耳まで真っ赤になりながら、右手で顔を覆いつつ隙間からこちらをチラ見しているデリック様がいた。
再び聴こえる鐘の音がこう告げている……
──はい、落ちたー!!
どうやら私はチョロインだったらしい。
「…………リンダ……とても、綺麗だ」
クール眼鏡の筈のデリック様の放つ、蚊の鳴くような声のダメ押しの一言。
しかも眼鏡キャラのくせに、眼鏡がない。
眼鏡が似合う眼鏡キャラがたまに外すのは狡い。ダメ押しに次ぐダメ押しだ。
これは俗に言うところの『ギャップ萌え』というやつだ。
──はい、落ちたー!!!!(※二回目)
どうやら私はチョロインだった。(※確信)
してやった顔のローマン様に連れられていくデリック様と再び会うのは、チャペルの中。
地味な私は地味な私らしく、粛々と式で初めての口付けを行う。
唇が触れるくらい、生理的に無理じゃなければ大丈夫じゃないの?とか思っていた私だが……
今は……想像しただけで心臓が爆発しそう。
式が終わると着替え、領地へと向かう。
領地までは四日程掛かるが、領地に向かう間に交流を深めて、着いたら初夜……というのがこの国の習わしである。
『病める時も健やかなる時も』などという有難いお言葉そっちのけで、私はまるで思春期男子のように、この直後の誓いの口付けとその先に待つ初夜のことばかりを考えてしまっていた。
とりあえず……やっぱり私にヒロインは向いていない。
心からそう思う。