3 自由気ままな暮らし
そんなこんなで、僕は住み心地のよい田舎の一軒家で、自由気ままに過ごした。
森や、隣の平原にはモンスターもいたし、経験値の獲得には事欠かない。それに食べ物やお金や衣服は、巾着型の魔道具を通じて支給された。サイズも見た目も普通の紫色の巾着だが、機能が特殊だった。ちなみに紐は濃紺で、紐を留めるトンボ玉?はルビーのような透明な宝石だ。
いわゆる例の「四次元ポケット」のような道具で、内部には魔法がかけられており、どんな大きなものでも「収納する意思」を持って近づけると瞬時に姿を消し、巾着の中に収納される。
質量や体積に制限はなく、食べ物は入れた当時の状態のまま保存され、腐ることもない。
いくらでも収納できて本当に便利な道具だ。
しかもお金は召喚時にどどんと支給された。こちらの世界の貴族ですら、5回の人生を一生豪遊して暮らせるほどの金額だそうで、王はなかなかの太っ腹だった。見返りを求められているようである意味怖い。
こうして僕は衣食住は保証され、お金にも困らず、ひたすら自由に過ごした。
まずは「勇者のふく」を試着してみたが、予想に反してかなりオシャレなデザインだった。明るめの群青色で、肩には装飾された肩当て(肩パットか?)、白か黄色のズボン、腰回りには真ん中で留めるタイプのベルト、革のブーツ・・・といった典型的な勇者の服ではない。
黒を基調とし、身体にジャストフィットする細身の仕様で、黒のタートルネックのアンダーウェアをまず着る。長袖も僕の腕の長さにぴったりだし、首を守られていることに安心感もあった。
胴体の、落ち着いた濃紫の掛け布(とでも言うのだろうか?とにかくノースリーブのものだ。ファッションに疎いので表現できない。情弱ですまない・・)の裾は太ももまであり、横にスリットが入っている。太ももまであるものの、長過ぎずに良い感じだ。
みぞおちからへそ下まで、3カ所中央に黒い革のベルトがあり、ズボンは黒。ベルトは胴体をぐるんと囲うものではなく、飾りのようなもので、胸の長さ程度だ。ロングブーツも黒。
生地の表面は強固でいてしなやか、そしてなめらか。中に鎖帷子でも編み込まれているのではないかと思うくらい堅いのに、どんな姿勢をも邪魔しないしなやかさ。それでいて裏地も、表面も、シルクのように肌触りが良い。強度や耐久性を確認しておくために剣で突いてみても貫けなかったし、炎の魔法であぶってみても(おい!)、燃えるどころかコゲひとつできなかった。この服にも魔法がかけられているのだろう。メテオ並の魔法なら燃やせるのか試そうとも思ったが、せっかくの服が消滅したらそれはそれで凹むので、耐久度チェックは程々にした。
また、黒いマントもついていた。騎士のようでもあるし、魔道士のようでもある。レインコートのように撥水性もある。そして、寒い時にはきわめて暖かいコートのよう、暑い時にはミストシャワーが発生しているかのようにひんやり涼しく、肌を日差しから守るカーテンのようだ。
マントにももれなく魔法がかけられているのだろう。
上等というか最高の服だ。
この世界では町民に紛れていても、騎士の中にいても、浮くデザインではない。とにかく形容しがたいのだが、「マントを取ると騎士、マントを羽織ると魔道士に見える。全体は黒っぽくてシュっとしてかっこいい」とでも言っておこう。
巾着の中にはただのパジャマも入れられていた。しかもかわいい三角のナイトキャップつきで笑った。手持ちの服が「勇者のふく」と「パジャマ」だけでは味気ないし格好悪いので、新しい服や靴も何着か買っておきたい。アイテムも欲しい。単純に、暇だ。
そんなわけで、僕は城下町へ行くことにした。
目立たないよう、勇者のふくは一部だけ身につけた。
黒のタートルネックのトップスと、黒のズボンとブーツだけ。剣は目立つので、杖だけを懐に隠して、僕は出かけた。まあ、これなら目立たないだろう。それから巾着を忘れずに携帯する。
城下町の賑わいに想いを馳せ、平原で新たに捕まえて飼い慣らした元・野良馬に乗り、僕は家を出た。