2 意外とイージーモードかもしれない
突然異世界に勇者として召喚されたが、身体と頭脳を鍛えていたことが幸いして、わりとなんなく様々なスキルを習得することができた。剣も魔法も、マルチにどちらも使える人材はそう多くないらしく、こちらの世界の人々には驚かれたが、元の世界で散々鍛えたゲーム脳があれば、案外たやすいことだった。
最初は雑魚を倒してひたすら経験値を稼ぐこと。体力や魔力の習得のバランス、魔法の詠唱のタイミング、敵の種族に応じたターゲティングと攻め方、スキル獲得の順位付け、まさにゲームの世界のそれだったので、異世界に連れてこられた戸惑いはふっとんだ。むしろ、喜びに打ち震えたとも言える。
僕は、ゲームよろしく、物語序盤(召喚されて1年)で自分のレベルを現時点での最大値まで上げ、スキルも充実した。
剣や杖を握ったこともない素人としてスタートし、1年間でここまで鍛え上げたので、魔塔の連中も騎士の連中も、そろって青ざめていた。
そんな僕の噂を聞いて王だけはニヤリとしているらしく、正直不気味だ。一抹の不安を感じる。
だが、あとはストーリーを進めて各ステージのボスをいたぶるのを楽しむだけだ・・・。
僕はすでに、この異世界攻略ゲームをほぼやり終えたような、そんな気分になっていた。
僕は、この世界にスムーズに馴染めるよう、城下町の一角にある一軒家を王から与えられた。ただ、僕は元々田舎者だったので、喧騒が煩わしく感じ、城下町(当然一等地だ)の豪華な家は辞退させていただいた。
代わりに城下町から馬で1時間ほど離れた、森のほとりにある一軒家を用意してもらった。
要求をするなど傲慢だ、と粛正されるかと思ったが、僕が何をしても、どんな要求をしても、「異界の人」「勇者」という認識で、拍子抜けするほど思い通りに事が運んだ。
「勇者は召喚した大切な存在。もしも機嫌を損ねたら使命を果たしてもらえないかもしれない。そもそも異界の常識はこちらの世界と違うのだろう。」こんなところだろうか。
まあ、こちらの世界の人々だったら「王命に背いた」「王の配慮を無下にした」と、首を切り落とされていたかもしれないが。
僕は幸い、この世界では王に次ぐ特権階級を獲得したのだ。