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08 編入前日(午前)

「……やっちまった」


 無事、第一級犯罪者を捉えた次の日の昼前。

 ルフェニラ魔術学園の近くにあるカフェにて、ラースは己の失態に気がついた。

 荷造りが終わり、宿から出て昼食を兼ねた遅い朝食を取っている最中だった。テラス席で、頼んだサンドイッチが来るまで暇つぶしに朝刊を読んでいたら、ある記事が目に止まったのだ。

 ある商会が魔術研究所との合同開発していた、新型人工心臓の開発に成功したとの内容だった。従来の物とは異なり肉体との拒否反応が少なく、より魔力を体内に循環できるなどと研究の詳細が書かれているが、ラースが注目したのはそこではない。記事で紹介されている研究者の名前に、ひくりと頬を引き攣らせた。


「ハロルド・ヴァン・ロクラグ……どこかで名前を聞いたと思ったら、そういうことか」


 昨夜、すっかり忘れていた少女の存在を思い出し、ラースは額に手をやる。そして同時に、彼女の名前に聞き覚えがあったことに納得した。

 ハロルド・ヴァン・ロクラグは、魔術研究所に所属する生物学者かつ国家魔術師だ。

 魔術研究所は魔導省管轄の国立研究機関の一つであり、幅広い分野の魔術の専門家が集まって日夜様々な研究をしている。ラースが正体を隠す羽目になった偽造硬貨、その発見装置を作成しているのもこの研究所だ。魔導師も十数人ほど所属しており、ラース自身、研究協力を請われることが何度かあった。

 その内の一つに、ハロルドとの関わりがあったのだ。


(別に悪い奴では無かったが、特別記憶に残るほど仲が良かったわけでもねえ。つーか、アイツ、この研究の副主任じゃなかったか。新聞には主任って書いてあるんだが)


 ラースが初めてハロルドと接触したのは二年前。新聞に書かれている新型人工心臓の開発が始まったばかりの頃だった。ラースの眼球に刻み込んだ疑似神経を心臓へと応用したかったため、彼に時折意見を求めてきたのだ。

 当時、ハロルドはプロジェクトの副主任として働いていた。良くも悪くも真面目といった印象で、礼儀正しい青年だった。それ以外の目立った特徴はないせいで、記憶には残りづらいが。


(ハロルドに最後に会ったのは……確か去年の秋だから、一年半前か。血縁者といえど、俺様のことを話しているとは限らないが、警戒するに越したことはねえ。せめて、違う学校だったらな。昨夜のうちに口止めをするべきだったのに、久々にやらかした。クソが)


 ラースが落ち込んでいると、黒いシックな制服を着た店員が彼の席に頼んだメニューを運んでくる。肉と野菜、そして卵を挟んだサンドイッチが二つ、洒落た皿の上に盛り付けられていた。

 ラースは気を取り直して、両手でその一つを掴み大口で食べ始める。具材と中のソースはともかく、パンの味は彼の好みだった。


(とにかく、昼に学園に行って、制服と鞄とその他諸々必要な物を揃えるのが先だ。私服だと目立ってかなわねえ。それと、今日から寮に入るから、同室がどんな奴かも把握して……)


 ふと、ラースは食べる手を止めた。心地よい日差しに、顔を上げる。青い空に、白い雲がよく映えていた。


(そういえば)


 彼の脳裏に、二人の人物が浮かんだ。

 一人は同年代の銀髪の少女、もう一人は三十手前ぐらいの紺色の髪の青年。

 レプリカ・ヴァン・ロクラグと、ハロルド・ヴァン・ロクラグ。


(同じ性を名乗っている割には、全く顔が似てなかったな)


 二人の顔立ちが全く違うことにどういう意味があるのか、ラースはまだ知る由もなかった。


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