表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「ゲキ太りブー」

作者: 弘せりえ

「最近どないや?」



既読。


30秒後。



「太った」



既読。


10秒後。



「そっか。ほんじゃ、また」





くれはは、携帯を投げ出して、

自分の部屋から飛び出し、

リビングに向かった。



そこでは、大学留年4回生の

弟・紀之のりゆきと、母が呑気に

お茶をしている。



「ちょっと聞いてぇよ!」


 

恐ろしい形相で

現れたくれはに、

二人は特に驚くことなく

「なんなん?」と聞く。



「シンイチから、今、

LINEあってん!」



それは、くれはが中々

断ち切れない元彼の名前だと、

家族全員が認知していた。



「そりゃ、よかったやん」



母は、この体のどこに、

更なる脂肪が必要なのか

という体型で、

脂肪分たっぷりの

ミルクティーを飲みながら

相槌を打つ。


 

父に似て、太れない体質の

紀之はブラックコーヒーを

飲みながらニヤニヤする。



「ねぇちゃん、

未練タラタラやなぁ。

ほんで、シンイチは、なんて?」



仮にも年上のくれはの元彼を、

呼び捨てにする弟が気に入らず、

くれははムッとする。



母は、紀之をこづき、

紀之は改める。



「で、義兄さんは、なんて?」


 

更にムッとするくれはを、

母は、まぁまぁとなだめる。



「アホな弟はほっといて、

で、シンイチ君は、なんて?」


 

くれはは、母の言葉に、

思わず涙ぐむ。



「半年ぶりに、

どないしてるって」



「で、ねぇちゃん、

なんて答えたん?」



「・・・太った、って

答えてしもた」


 

母と弟は、一瞬黙り、

そして弾けるように笑い出した。



「確かに太ったよなー、

家族でも、肉襦袢着てるのかと

思うほどやもん」


 

母の心ない言葉に、

弟も笑う。



「ゲキ太りって、

単語調べたら、

感激の激じゃなくて、

劇的の劇やってん、

なるほどなーと思って、

なんとなく字面が悪くて、

エッセイにするの止めたわ」


 

紀之は就職活動もせずに、

大学の構内新聞に

エッセイなど書いている。



「何を新聞に

おもしろおかしく

姉のこと書こうとしてんねん、

この留年生!!」


 

くれはは、思い切りキレた。



「なんで、私がゲキ太りしたと

気付いてたのに、

誰も止めんかったん?

ひどいやん」


 

そんなくれはの言葉に、

母はほくそ笑む。



「ええ年して、何言うてんの。

自分のお金で

買い食いしてんのに

文句言われへんやん。

で、彼はなんて言ってきたん?」


 

すでに、母・弟とも、

満面の笑みで、

くれはの答えを待っている。



「もうええ。うるさい。

なんも言いたない」


 

くれはは脂肪で丸くなった

背中を更に丸めて、

自分の部屋に戻った。





思えばこの半年間、

くれはは食欲の衰えなく

食べ続けた。


しかし、趣味のスポーツジムでの

運動も欠かさず続けての上でのことである。



「季節のおいしいもん食べて、

運動して、でも太って、

何が悪いのん?

めちゃ健康的やないの」


 

親友のモトミは

そう言ってなぐさめてくれるが、

彼女自身がスレンダーである。


それに元々、

シンイチを気に入らないモトミは、

くれはの悩みに耳を傾けてくれない。



「だいたい、そんな男、

どないかと思うよ。

人間、年齢とともに、

消費カロリーも衰えて

いくんやから、

しゃあないやんって思う器も

ないんかい」



「へぇぇぇぇ~・・・・」



同じ年のモトミのダメ出しに、

くれはは、心底めげてしまった。



「自分がいつまでも

細いからってあんまりやん。

やっぱり女同士の友情なんて、

オトコがからむと脆いもんや」


 

その言葉を聞いた母は、

また爆笑した。



「別にモトミちゃんと

シンイチ君を取り合いした

わけやあるまいし、

おおげさやな」





しかし、くれはは、

やはりモトミとの関連を

切り離せなかった。


というのも、

なぜくれはが自分が太ったことを

自覚したのかというと、

モトミが共通の友達の

結婚式に参加したくれはの

写ったビデオをくれたからである。


 

服のサイズは、

確かにふた回りくらい

大きくなった。


写真でも、なんとなく

やっぱり太ったかな、と感じた。

 

しかし、実際に、

おめかしして、友達の結婚式で

嬉しそうにニコニコ笑っている

くれはは、もう絶句の、

絶品ものであった。


 

紀之がまず言った。



「どっかの地方の

ゆるキャラみたいやな」


 

それは、くれはがかぶり物を

しているようだからだ。



「あれ、ねぇちゃん、

後ろにチャックついてるんやんな?」



母は笑い転げながら、

紀之をはたいた。



「あんた、

うまいこと言うやないの」


 

くれはは、あの時の

衝撃を忘れない。


なのに、また、姿を見られていない

シンイチにまで、


自分の現状をばらしてしまった。





「あー、あんたがあんな

ビデオくれるから、

家族からバカにされるわ、

元彼に速攻去られるわ、

いいことなしや」


 

文句を言いながらも、

くれははモトミと休日を

過ごしていた。



「だから、そんな男は

つまらんって言ってるやない。

くれはは太っても

くれはなんだから」



「そんな、腐っても鯛みたいな

言い方せんといてよ」



「ええように解釈するなぁ。

鯛は高級魚やで」



「私は鯛以下かい?」



「いや、そういう意味・・・かなぁ?」



二人は子供のようにじゃれいながら、

時々気に入ったお店があったら

立ち寄ってみる。



洋服店にモトミは入りたがったが、


「やらしーわ、自分細いからって」


とブチブチ言うくれはのせいで、

洋服以外の店に立ち寄った。



「靴やったら、サイズ変われへんから、

いいやん」



「靴はいらん」



「じゃ、何が見たいんよ」


 

モトミの言葉に、

くれはは、ぼうっと考える。



「今欲しいもんなぁ・・・

なんか変身できるアイテムないかな?」



「魔法の杖とか?」



「はははっ」



思わず笑ってしまってから、

くれははムッとする。


「たいがいヒドイな」




が、そんな都合のいいものが

あるはずもなく二人は、

お気に入りの洋食屋さんに入り、

くれはは、大好きなハンバーグを

頬張るのであった。



「やっぱり美味しそうに

ご飯食べてるお前が一番やで~」


という誰かが現れないかなぁ

と夢見ながら、

笑いながら食べるご飯も

美味しいものであった。





                     完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ