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ラピスの配達人  作者: 海埜 ケイ
2/9

N-23②


 辿り着いた村は、細長い鋼に似た素材の板に囲まれた隠れ家のような村だった。

 おそらくは先の大戦で壊れた戦闘機の部品が地面に突き刺さり、その下に身を潜めるように暮らし始めたのだろう。

 弱者が外敵から身を守るためには大切なことだ。

 少女は村が近付くにつれて速度を落としていき、村唯一の出入り口付近で完全に単車を停止させた。

 村の出入り口には背の高い二十代半ばほどの男性とやや背が低く横幅のある四十代くらいの男性二人が立っていた。

 少女はヘルメットを外して単車のハンドル部分に被せると、姿勢を正して二人の男性の前で笑みを浮かべた。

「配達会社ラブ・アンド・ピースーーラピス社より派遣されました。個人コードR313と申します、通行の許可をいただけませんか?」

「ラピス社か、物資の補充にしては人事不足かぁ? そのちっぽけな荷物だけなんて、この村に何人の人間が住んでると思ってんだ? ああんっ?」

 背の高い男性の方はやけに攻撃的だ。

 荒野に住む者がラピス社の人間を追い返すことへのデメリットを彼は知らないのだろうか。

 少女は笑みを崩さないまま男性の問いに答えた。

「私は手紙・小包み等の軽量物流の専門になりますので、村全体の物資補充は行っていません。村全体の物資補給に関しましては二十日後にやってくるキャラバンが一任しておりますのでそちらで……」

「あ~、はいはい。分かった分かった。もう、テメエには聞かねえよ、回りくどくてうっとうしいったらねえ」

 自分から聞いておいて随分な物言いだ。

 少女の口端がヒクリと引き攣ったのを見て背の高い男性は楽しげに笑った。

(この人は意地悪なんだ。あんまり関わらない方がいいな)

 だが、村に入るにはこの二人から許可を貰わなければならない。

 どうしようかと逡巡していると、背の低い男が長いため息を吐いた。

「イルテ、そのくらいにしておけ。ラピスの連中に変な因縁付けられちゃあ、この村はお終いだ」

「チッ、分かったよ」

 背の高い男性ーーイルテは舌打ちを残し、そっぽを向いた。

 背の低い男性が少女の前に立つ。

「滞在許可証は村長からもらってくれ」

「通ってもいいんですか?」

「ラピス社の連中は身元がはっきりしてやがるし、物取りなんて馬鹿なことする奴はいねえだろ? もし、嬢ちゃんがそんなことを考えていやがったら、イルテの野郎を向かわせてタコ殴りにするから安心しな」

「トルイアじいさん、流石の俺もタコ殴りはしねえよ。一発殴って逆さ吊りにするだけだ」

 ケタケタ楽しげに笑うイルテは趣味が悪いと思う。

「そんなことはありえません」

「どうだかな」

 尚も食ってかかろうとするイルテを一睨みし、少女はハンドルを握り、単車のエンジンを掛けようとした。

「おい、嬢ちゃん。村ん中は乗り物禁止だ。狭くて小汚ねぇ村なもんで、乗り物を入れるとアブねえんだよ」

 背の低い男ーートルイアに言われて、少女はぴたりと動きを止めた。

 イルテとトルイアの向こうに広がっている村の中をザット見回した。

 村は巨大な板で囲まれていて普通の村以上に狭く感じるし、一歩足を踏み出すだけで砂埃が舞った。こんな場所で単車を走らせるのは確かに危険だ。

「分かりました」

 少女はトルイアたちから少し離れた場所に単車を移動させると、虹彩認識セキュリティを使い単車をロックする。

 これで、少女以外の人間が単車を動かすことはできなくなった。

「目ん玉を鍵にするたぁ、ずいぶん用心深いなあ」

「……ここの門番は信用できないもので」

 ジト目でイルテを睨上げるも、イルテは少女の反応をおもしがるだけでおくびにも出さない。とても面白くなかった。

 少女はツンッと顔を逸らし、二人の間を通り過ぎて村の中へ入っていった。



~・~



 少女が去った後、トルイアはイルテに声を掛けた。

「イルテ、お前にしては珍しいな。あんなに突っかかるなんてよぉ」

「別に。……あいつら”人形”が人間の真似してる方が悪い」

 イルテは嫌悪を隠そうともせず、鼻息を鳴らして腕を組み胸を張った。

 イルテはまだ若い。

 まだ世間の不条理を受け流すことができないのだろう。トルイアは目を閉じ息を吐いた。

「俺としては、そう言う風に作った人間の方が悪趣味だと思うがね。自分たちは安全な場所で平穏に暮らし、荒れた荒野に住まざる終えなくなった人間には人形を寄越す。……俺たちは人間として扱われてねえんだよ」

「自分で言って、勝手に傷ついてるんじゃねえトルイアじいさん」

「じいさん言うな! 俺はまだ48だ」

「平均寿命50歳の時代じゃあ、充分にじいさんだよ」

 ゲラゲラ笑い声を立てるイルテを、トアルは肩を竦めて受け流す。

「ロクな時代に生まれなかったな」

「それは、奥さんと娘さんを否定したいんか?」

「バカか! そうじゃねえ。もっと平和な時代に生まれるか、中央で生まれてりゃあ、こんなに苦労させることはなかったのにって思ったんだよ」

 トアルの言葉にイルテを口を噤み、少女が置いていった単車を眺めた。

 砂埃が被って汚れてはいるが、この辺では絶対に見ることのないエンジン付きの乗り物。高性能のセキュリティシステム。少女自身も身綺麗で大切にされていることが一目で分かった。

(まあ、”人形”だけどな)

 イルテは少女を見たとき、うらやましいと思ってしまった。

 自分より年下の容姿である彼女の方が自分よりも格段に”いい生活”をしている事実を。

(くだらない嫉妬ってのは分かってる、分かってるけどよぉ)

 イルテは少女が去った方向を睨みつけた。

(頭で理解できても心は追っ付かねえんだ、悪く思うなよ)

 イルテは自分の中に揺蕩う不満を飲み込み、村に背を向けて自分の仕事へと戻った。




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