情けなさと心強さが同伴してる少年
ヴァージニアは白馬を巧みに操って、貴族の無言の幅寄せを回避していた。
明らかに嫌がらせであるが、助けてくれる同僚はいない。
それでも、冷静にナポレオンという愛馬に颯爽と乗る。
それが騎士道と云わんばかりに、堂々と父に恥じない身のこなし。
母親譲りである自慢の金髪が平原の風に流されていた。
皆と違い兜は着けていない。
それは自らに課した戒めであり、師であるゴスロ伯爵の遺言だからだ。
幼い時分より見守ってきた風景が青い眼に映り込む。
この何処かでまだ下らない殺戮が続いている現状に、何も出来ない自身の不甲斐無さを責めていた。
察して心配する愛馬がひと鳴きすると、ヴァージニアはそれに答えるように背を撫でる。
田舎娘らしく農耕馬とか子供の頃から乗り馴れているので、乗馬は板に付いていた。
それに比べてその後ろで怯えるハルト。
初めての乗馬体験で、まだ一時間も経っていないのにダウンしそうだった。
加えてこの白馬、少年に警戒または拒絶反応を示しているのか、あからさまに揺らす。
「だらしない変態ちゃね。お前の歳で馬に乗れないなんて、有り得ないんだが」
「しょうがないでしょ。僕の世界では一般人が馬に乗る風習なんて廃れていたんだから」
と言いながら揺れる度にバランスが崩れそうなのを必死で立て直すハルト。
本当はヴァージニアにしがみつきたかったが、僅かに残っている男の尊厳が女の子に情けない姿を晒す事を拒否していた。
それでなくても馬というものは直接乗るのに適していない生き物。
鞍とあぶみが開発されなかったら、まだ戦車が主流であったであろう。
前へ座る少女はその様子に呆れながら、「ところでお前はさっきから何をやってるんだっちゃ?」おかしな事をしている相棒を問い正す。
真後ろでカタカタ音を立てているので、気になって仕方がなかった。
「…………ああ、今のうちにヴァージニアさんの操作方法を向上させておこうと予習しているんだよ。うぷっ!」
「例の変な板か?」
「うん」
スマホをいじって、長瀬凜から送られてきたスキルデータを再確認していた。
しかも丁寧な説明と戦略・運用のレポート付き。
相変わらずの丁寧さにハルトはただただ敬服と感謝した。
「言っている意味が未だに良く分からないけど、私の為にやってくれているというのは分かる」
「僕は生き残りたい。なら、自分の仕事を着実にこなすのがその最短距離だよ」
戦闘では一瞬の判断力が勝敗が分ける。
ならば出来るだけ情報を頭に焼き付ける事こそ、ハルトがやるべき事。




