ブリキ騎士呆れる
「初陣だ、詮無いことだよ」
「父の分までがんばりましゅ!」
「それは良い心がけだ。でも気負いすぎるなかれ」
カミカミだが、ジェントルマンとして、または師匠としてここは指摘しない。
ブリキは父の代行で今回参陣したのだ。
まだ、叙勲式を受けて三ヶ月も経っていない新米騎士。
三年の間、伯爵の従者から見習い騎士を経てここに至る。
「と、ところで師匠、主力はいつ到着するのですか?」
ブリキは横断歩道を渡る幼稚園児の如く何度も左右確認する。
「ない」
「へ……、ええええっ!?」
「驚くな、我が弟子よ」
兜で顔が隠れているが、目を丸くしているだろう。
「傭兵は?」
「金も騎士団に寄付したから雇えない」
「……」
ブリキは力なく剣を落とす。
暫し柄と矛先が交互に上下運動。
「師匠、何を馬鹿な事をやっているだっちゃ!」
「馬鹿な? 失敬な、幹部として騎士団を支えるのは当たり前の事だ。それと訛りが出ている。もっと騎士らしくエレガントに」
「ああもう、何でこんな時に見栄なんて張るんですか!?」
「見栄と意地こそ貴族の本懐なり。この事を遠い異国では『武士は食わねど高楊枝』と言うらしい。騎士もまた然りなり」
伯爵の動かせる兵は僅かな契約した騎士と徴兵した私兵のみ。
本隊は派遣。
軍資金は全て騎士団に寄付してしまったからだ。
堅実より当然のように見栄を優先した。
これが武門第一に考える名門貴族という生き物。
「ここを守るのには少なすぎますよ。それにこんな後方支援じゃ、伯爵が常に言っている騎士の栄誉と武功は立てられませんよ!」
「これは仕方がない。本来は奴が担当なのだが、手が離せない今、親友の私がやるしかない」
「う! そ、それは分かってますよ。十分と分かっていますとも」
口に出しておいて、並べていることが矛盾だらけだと気付き、ブリキは言葉を詰まらせる。
迎撃の場合、この地を支配する者が兵糧を管理する暗黙の習わしがあった。
もちろん地の利に明るい者が何かと都合が良いからに相違ない。
都合がつかない場合は代役を立てる決まりがあり、このシュレリアを治めている領主はゴスロ伯の友人、なので彼に任せたのだった。
「それに我が戦友より預かった大事な弟子だ。初戦で無茶はさせたくはない」
自分の子のように頭を撫でた。
兜の上からなので揺するたびに音がする。