ゴスロ伯は何を思い死を賜ったのか。
「父様、現在の戦況はどの様になっているのでしょうか?」
「思わしくはない。食糧庫が燃やされたのだ。軍団の士気に壊滅的打撃を受けたといって良い。だが、至極当たり前だろう。友ゴスロ伯……エドウインの思惑が裏目にでてしまったのだ。今、ホーキンス侯爵がここで四散した自軍の建て直しの指揮を執っているが、何処まで持ち直す事が出来るか怪しいものだ」
建て直し。
聞こえは良いが要は形勢が悪くなって尻尾を巻いて逃げた臆病者だと、表面にはおくびにも出さないが心が震えていた。
――――ヴァージニアは父の副官から開戦から今現在までの詳しい戦況説明を受ける。
騎士団長ヴァン公爵の采配で敗北は避けられたが、それでもここから勝利する事は絶望的だった。
「父様、師匠がホーキンス侯爵様に兵と資金を提供したのはご存じなのですか?」
「ああ、エドウインから事前に相談を受けていた。ホーキンス侯爵たっての頼みだ、断る訳にもいかなかったのだ」
「やはり、侯爵様の方から持ちかけていたのですね」
ヴァージニアは漸く合点がいった。
天下に名の通ったゴスロ伯がそんな愚策を自ら望んでするわけがないと思っていたからだ。
(酷い。侯爵様さえ援軍に来てくれれば師匠を失う最悪の惨事を免れただっちゃ。恩を仇で返すのが貴族なのか?)
弟子は酷い憤りを感じる。
「ホーキンス候が生き残ったヴァージニアを労いたいそうだ。どうする、お会いになるか?」
「はい。私からも候爵様にご報告しなければならない事が幾つかあるので」
「分かった」
用が済んだ父が踵を返すと、「お待ちください父様」慌てて引き止める。
「なんだ?」
「この民間人の滞在許可を欲しいんだっちゃ」
「何だと?」
「こんな戦場の真っ只中で一般人を放り出す事は、騎士のすることじゃないだっちゃ」
「うむ……、流石は我が娘。騎士の手本に相応しい行いだ。良かろう。小僧よ、ここに滞在するがよい。折を見て配下のものに安全な場所まで送り届けよう」
「ありがとうございます父様」
「男爵様、ありがとうございます」
ヴァージニアは、溜め込んでいた空気を出すように大きく息を吐いた。
「それから、うちの領民達志願兵は全滅です。父さまごめんなさい」
「そうか」
「…………………………」
家族と同様に扱っていた領民達の死に、叱咤を覚悟していたが返ってきたのは淡白な返答のみ。
これが戦時中の領主の在り方なのかとヴァージニアは顔を曇らせた。




