国家存亡の危機
饒舌なスピーチが終わりを告げ、辺りから喝采が上がる。
拍手がまばらなのは人望がない訳ではなく、ただ単にその場に人が少なかっただけであった。
吹き抜ける風が冷たく、早くも冬の到来を予兆。
伯爵の羽織るマントがその大地の溜息に煽られて暴れ馬のように躍っている。
お気に入りの帽子が飛ばないように上から押さえ付けた。
スタンドライオ領内にあるゴルダ平原。
広き国土の割りには数少ない平地の一つだ。
草原と違い森林も多く、農作にも適していて、周辺には集落も多数点在している。
ここには王都へ続く街道があり、他の所は山道な為、最短で着く。
貿易上はさることながら、北から侵攻する場合、軍事でもゴルダ平原を押さえることは重要な意味があった。
そこに世界支配を目指す魔界の王、魔王シュリン・ランホウが大陸全土に向けて宣戦布告してくる。
シュリン治める魔王国は、軍事中心の中央集権完全魔族主義国家だが、人間との貿易も盛んに行って国を富ませていた。
スタンドライオ王国とも国交の為、お互いの貿易品をやり取りする予定であったが、献上した貿易品の水晶を見るや、魔王は目の色を変え使者を殺し、王国に宣戦布告を宣言する。
魔王は第五軍団率いる驃騎将軍バクリュウド・コウシンを派遣。
北大陸半分を自軍だけで統一した魔王軍が誇る常勝無敗の無敵軍団だ。
この国家存亡の危機に対して、国王は全国に迎撃を勅命。
応戦するのは大陸最強の伝説を持つ獅子王騎士団。
魔族が北の海上国家を滅ぼしたと報を受けて、王命により直ぐに獅子王騎士団を編成。
全騎招集は邪竜王ブラックドラゴン討伐より実に150年ぶりの事であった。
伯爵の任務は本営後方の兵糧庫の警備。
食糧を貯蔵しているこの場所は、脳が本営なら言わば心臓部。
長期戦が出来るかどうかはここの存続に掛かっている。
大型の幕舎が十数個、その回りにも入りきれない木箱が山積みされている。
ここから各陣営に配布されていた。
大きな戦になると分散させるのがセオリーなのだが、軍上層部自体が相手を侮っているきらいがある。
「我が弟子よ、いつまで拍手しているつもりだい。ボクにワルツを踊れとでも?」
「きき、緊張してますです。はい」
見た目、ゼンマイ仕掛けのブリキ人形にしか見えない程、完全プレートアーマーを身に纏った騎士。
声が兜でくぐもって聞き取りにくく、右手右足が仲良く出るぐらい緊張していたせいで、子供並の身長からか本物の玩具に見えなくもない。