全てはこの時の為(ヴァージニアサイド)
3
世界の本質は闇。
何も存在を許されない虚無。
暗黒は墨汁をかけるように森を覆い尽くす。
この愚かで蒙昧な行いを消すかの如く、目を背けるかの如く、全てを黒に塗り潰す。
雲の間を僅かに覗く月明かりの中、金髪の髪を黄金色の光を妖精みたいに撒き散らしながら、小柄の少女は一人ひた走り続けていた。
ヴァージニアは駆けながら、敵が仕掛けた見えない真空の刃をすんでのところで躱し続ける。
レーダーに弾幕が映っているので、暗所でも余程の事がない限り回避は可能だ。
しかし、対処可能なのは真空波のみで、暗闇の強行軍は彼女の体に負担をかけている。
障害物に当たる度に打ち身や擦り傷を量産、度重なる苦痛に顔を歪めた。
「本当にこれで良いのか?」
『うん、泥で視界から消えさせていると思い込んでいる今が好機だよ』
レーダーを駆使、同じ事を繰り返し、バクリュウキョウに急襲。
だが、この行為自体にとどめを刺す意図はなく、狙いは別にあった。
「泥とは考えたっちゃ、はぁはぁ」
『対人戦だとステージに合わせてカラーリングを変更するのも戦術なんだよ。夜は黒、市街地は灰色、森なら緑ってね』
「意味分からんだっちゃ!」
ハルトはバクリュウキョウの必殺の陣形を逆手に取る作戦を立案。
泥まみれになることによって、認識を一気に阻害するゲリラ戦術の初歩と、レーダーによる真空波完全把握で、相手を徹底的に撹乱させる。
最後は油断した瞬間、死角から飛び出し弱点の脇腹に一太刀浴びせる手筈になっていた。
「これなら勝てるっちゃ!」
ハルトの戦略最後の要に、小さな騎士は泥だらけの手を当て願掛けをする。
『いや、ボス戦はそんな生易しいものじゃないよ。同じ種族でも性能が三倍優れているのは常識なんだ。ゲームだけど』
「変態過ぎて共感は無理だっちゃ」
『そうですか』
その間にもレーダー上では敵を示す赤のポインターが、プレイヤーを示す青のポインターと重なる。
「遂に息切れか? ヴァージニア・ウイル・ソード。悪いが眠ってもらうぞ!」
絶好の位置を捉えたヴァージニアへ一撃を加える。
だが、
「ぬかったわ!! これは泥人形か!?」
「引っ掛かったちゃ!」
『デコイって奴さ』
バクリュウキョウが手刀を撃ったのは、鎧とマントを身に纏った只の泥の塊だった。
そう、全身泥まみれで奇襲を掛けていたのは全てこの為の布石。
レーダーで推測して遂にバクリュウキョウの死角を取った。
この位置からだと弱点に一番速く一撃を入れる事が可能だ。




