ゴスロ伯は国を憂い。
はためく大旗、大地に突き刺さりて、双頭獅子、七海轟き、英雄英傑、蒼天を穿つ。
彼の国を語る時、この詩の一文が必ず入る。
東ザンレシア大陸北に位置する、『スタンドライオ王国』。
東大陸は中世西洋文明に極似した文化が発展していた。
いにしえより多くの英雄英傑を輩出していた誇り高き勇者の国。
特に建国の祖『ルイーン』は獅子王と呼ばれ誉れ高き12騎士と、二つ名の元となっている騎士団を率いて魔王討伐の偉業を成し遂げている。
国旗には炎に挑むまたは防いでいるようにも見える二頭の獅子が描かれ、目にする者全てを圧倒した。
その御旗の元、声高らかに演説する一人の男あり。
「皆、聞いているとは思うが、とうとう魔族がこの王国に侵攻してきた。主張は『建国王といにしえの魔王が付けられなかった決着を今こそ付けよう』だそうだよ」
白髪と顎髭と藍色のとんがり帽子がトレードマーク。
刺さっている白い羽が自己主張していた。
この男、声が通っている。
マイクがないので、声が大きいまたは澄んでいるというのは将として重要なファクターであった。
「なんとも馬鹿げている。大義名分をこじつけなのがまる分かりだ。実にスマートじゃない」
歳は四十中頃、顔にシワがちらほらと大人の渋味があった。
瞳は深く鼻は高く眉は細長い。
弁がたち、均整の取れた顔立ちが、若者だった頃はどんな輩だったのかを推測するのが容易かった。
演技派だ。
いちいち芝居がかった主張に己自身が陶酔している風にも伺える。
「我らは誇り高き獅子王騎士団の一員だ。幾ら魔族でも慈愛を持って紳士的に接してきた。正式な国同士の貿易の話だって持ち上がっていた。なのにこの仕打ちだ。実に嘆かわしい」
騎士団幹部のみ許される黒光りしているプレートアーマー一式、胸には獅子王紋が刻印されている。
この『獅子王騎士団』とは、王国建国の王が創建、数々の名声と歴史がある由緒正しき正義の騎士団だ。
過去、幾つもの国難を退けた実績がある。
王国の誉れ、大陸の憧れの的。
「この魔角断伯を祖に持つゴスロ伯爵、エドウインが誓う。再び魔王と対峙した暁には必ずや角を斬ると!」
オーバーアクション気味に対陣している魔王軍へ、手を剣に見立てて斬りつける。
この瞬間に幕が降りれば、一人芝居は成功だったかもしれない。
ゴスロ伯爵、ゴスロ地方一帯を支配している王家に仕える領主だ。
先祖は建国王の指揮の元、魔王討伐に参加したとある。
見事魔王の角を切り落とし、王から魔角断伯の名を賜った。
獅子王騎士団第十席の位にあり、平時は幹部として運営にも携わっている。
爵位はそのまま軍の階級を示しており、伯爵は大雑把に分けて、下位将軍または武将と同等。辺境伯は上級将軍または家老扱いだ。