異変
『何? この凄い音は』
「じじ、地震なのか!?」
『それは無いよ。近所に住んでいる私の方は異常無いもの』
コマのような洗濯機のような高速回転で目を回し、「うわああああ!」爆弾テロでも起きたみたいなポン菓子が飛び出たみたいな大きな衝撃音でハルトは青ざめる。
それと伴ってリセットされたゲームコックピット内は、漆黒の闇へと変貌し包み込んだ。
『ハルちゃん大丈夫!?』
「ぎゃぁぁぁぁぁ! なんですとぉぉぉ!」
何処から声を出していると思うぐらい悲痛な魂の悲鳴が室内を反響する。
今なら描いた本人も見分けがつかない程の、本家に負けないムンクの叫びが拝めるだろう。
『どうしたの!?』
「停電になったせいでワンプレイ損した!」
『あほか!』
「うわああああん、俺の大切なお金がぁぁ!」
返金レバーを激しく上下運動するも、彼の魂とも侠気とも言えるラストコインが再び手元に戻ってくる気配はない。
「くううう! 返せ詐欺師! 大事な青春の一コマを停電如きで妨げるなぁ!」
『大袈裟だねぇ』
パートナーは呆れながらも安堵した声だった。
「大袈裟なもんか。こっちは魂削っているんだ」
『物理的でしょう? 今の内に宣言しておくけど今月はもう支援しないからね』
謎の停電より灰ゲーマーなハルトにとってゲームがプレイ不能という事は、世界が滅びる事より大事なのだ。
支離滅裂だと思うが、作家になれなかったらラグナレクorハルマゲドン系で末世になった方がマシとマジで願っている数多の底辺Web作家群なら気持ちが分かり合えると思う。
「…………こうなったらモンスタークレーマーのふりして、この店からお金を徴収してやるぅぅ!」
『止めなさい。それでなくても色々と迷惑を掛けているんだから、出入り禁止になったらゲーム配信厳しくなる』
「………………うっ! 死活問題に発展は不味い」
それでもせめて、店員に文句の一つでも言わないと気が済まないので、詫びに2クレジットの要求を目論んでここから出ようとする。
『どうしたの? 早く出て店員さん呼んできたら?』
「そうなんだけど………………うぐぐぐっ!」
しかし、電源が落ちているので、自動式ハッチにロックが掛かっていて開かなかった。
『?』
「閉じ込められた……」
『あはははっ、冗談ばっかり。ろくなスコア出せず予算オーバーした時のような洒落じゃない事が起きるわけがないでしょう?』
「………………」
『え? マジで?』
もちろん本物じゃないので緊急用開閉ボタンなんて付いている訳もない。
ロボットのコックピットをモチーフに仕上げているので、一般的な扉でもなく観音開きでもなく、もちろん回転式でもない。
ロボットアニメでは当たり前な上へと開くタイプ。
ここだけ本物志向なので脆弱な若者ではびくともしないぐらい重かった。
ハルトは事態の深刻さを改めて認識する。
「これは無効だぁぁ、誰かもう一回ゲームさせてぇぇぇ!?」
『このおバカ! ここは助けでしょう!?』
電話越しに凜の的確な助言が響く。
もしお笑いの神様が傍観していたら、間違いなくハリセンでつっこみに加わっていたであろう。