鬼さんこちら、手の鳴る方へ
ノベルアッププラス小説コンテスト二次落選
「それでも誇りある魔族か!? お前ら冷静に判断しろである!」
「ソンゲン様、恐れながら、それでは敵の思うツボです」
そう、この場面では上官の的確な指示がなくては、臨機応変が効かないマニュアル兵では想定外に対処出来ない。
「死ネ!」
「うが、俺は味方ダ!」
「こっちにくるナ!」
「ぎゃあああ!」
味方は為す術もなく大混乱に陥る。
見えざる者に恐怖し、中には戦線離脱する者も現れた。
勿論ソンゲンも例外ではない。
軍学を蔑み、己の生まれと才覚のみを過信したこの男も、環境が激変した生物のように適応が難しかった。
このような輩ばかりでは絶滅危惧種にでもなりそうだ。
「おかしい。体力と勢いだけの猪のはずだが、どうすればここまで激変するのであるか?」
「やぶれかぶれの捨て身では?」
「そうであるな。この魔界貴族オーガ族の我輩がゴミに翻弄されるなんて有り得ん」
苦労知らずの高い身体能力からくる慢心から、現実を見据えることができず、自身のまなこを曇らせていた。
先程とは全く違う変則的な動きに、魔族達は動揺が隠せない。
次々と仲間が沈んでいく。
だが、ソンゲンは動かない。
何故ならばこれだけの相手をしていたらスタミナを使いきって、尚且つ、最後は一直線にこちらに向かってくると踏んでいたからだ。
だが、常に予測とは外れるもの。
ある程度減らした処でヴァージニアの軌道が変化する。
剣を大地に刺し、強制的に軌道修正。
待ち構えていたソンゲンを嘲笑うかのようだった。
「鬼さんこちら、手のなる方へだっちゃ!」
「オーガ族をバカにするなである!」
「おまちくださ――、ぐべ!」
ベタな挑発だった。
だが、「うおおおおおお!」あのワードは鬼族の禁句なのか、本能が理性を凌駕し怒りのゲージが簡単に頂点を突き破った。
部下が制止するも、カナヅチで釘を打つ要領で頭を潰す。
本能に近い単純な思考回路では軍の役職は宝の持ち腐れだ。
「ゴミの分際で遥か上位種であるオーガ族をおちょくるとは良い度胸である!」
「ウドの大木!」
「消し飛べ!」
あっかんべーっと、舌を出す。
対して逆鱗に触れたソンゲンは怒髪衝天。
味方諸共棍棒のフルスイングで薙ぎ払う。
されどヴァージニアは紙一重で躱し、兵士達を踏み台にしてジャンプ、トビウオよろしく別の密集地へとダイブした。
次々と五条大橋の牛若丸を再現するがごとく軽やかに武蔵坊の攻撃を避けきる。
これが来訪したての異世界人が仕掛けた罠とは露知らずに、怒りに我を忘れた愚か者は自ら味方の数を減らしていく。
だが、最後の伍になったところで空気が変わる。
「――軍旗違反だソンゲン」
「え? あばばば」
ソンゲンは聞き覚えのある謎の声に、何も理解出来ないまま一太刀で胴から首が離れた。
「お前はバクリュウキョウ!?」
「先程の小娘か」
夕闇に紛れ気配を消していたトカゲの武人がその姿を現す。
手に携えた愛刀からは、反逆者の血が滴り落ちてこの地を汚していた。




