人間失格
『ハルちゃん絶対お金入れちゃ駄目だよ!』
「ははは、もちろん分かっている」
今まで沈黙していたゲーム配信のパートナー長瀬凜が、ハルトが装着しているヘッドセット越しに話し掛けてくる。
今日の分の動画配信を撮り終わり編集していたのだ。
彼女も凄腕のゲーマーだが、型破りなハルトのプレースタイルに惚れ込み、動画配信を持ち掛けた。
それ以来のゲーム友達だ。
ちなみに容姿はボーイッシュだが、赤いフレームのメガネを掛けた女の子。
『いや、この声は諦めていない』
「長瀬さんに迷惑を掛けたことがあったかな?」
『先月貸した10000円がまだ帰って来ない』
「はははっ」
『笑って誤魔化さないで。イベントより食費が大事だよ。とにかくやっちゃ駄目!』
「……だが、断る!」
それでも欲望と使命に燃えるハルト。
凜の説得を押しきり、人間失格の烙印なみの煩悩に従って、『ハルト入れるなぁ!』なけなしの500円を憎念と共に投入口へ押し込んだ。
「はははのは、明日の飢えより今日の後悔だ」
『ばかぁぁぁ! 死ね! 餓えろ!』
「その時は長瀬さんちの玄関先で断食かな」
宵越しの金を持たない刹那主義的セリフを吐き捨てる。
本人はロックンロールなアウトローで、とっても格好良いと思っているので処置なし。
スタンダードな銃声の効果音を合図に、このゲーム堕天使にとって生命の灯火というべきクレジットカウントが0→1へと書き換わった。
『……もう。やるんなら次回配信分の予行演習として新エリアの下見してよ』
「了解です。その代わりお弁当分けてね?」
『はいはい』
静かに二双のレバーを握り、何回触ったかリプレイ不可能なくらい忘却の彼方へ置いてきたスタートボタンをピンポンダッシュの要領でプッシュ。
勢いあまってもう一度プッシュ。
最後のワンプレイを噛み締めるつもりは毛頭ないようだ。
キャラ選択完了後、オープニングをキャンセル。
『ハルちゃん、それよりさ、たまには何処か一緒に出掛けない?』
「別に構わないけど。今の限定イベントが終わってからでいいよね?」
『うん』
「分かった。よし、この戦いが終わったら長瀬さんとお出掛けする」
『それって死亡フラグだよ』
「ロボアニメの定番」
再び全面に映し出された世界へ誘われる。
『馬鹿なこと言ってないで、終わったら感想まとめてメールに送って。そのぐらい出来るでしょ?』
「ロンモチ。金はないが暇な学生ナメないで――――、はれぇぇぇぇぇ!?」
『どうしたの?』
前触れもなくハルトの機体が揺れた。
十年立て続けで凶を引く大坂おかんがおみくじをシェイキングするが如くの振動を前振りに。