男として
「東にあるアシュレイ砦に逃げ込めば、父様がいる。私の事を話せば脱出の手助けをしてくれるだっちゃ」
指で方角を示す。
アシュレイ砦はシュレリア男爵:ソード卿の拠点であった。
男爵でありながら広域の領地を支配。
この広大な戦場、ゴルダ平原一帯は全てシュレリア男爵の支配下である。
戦功重ねて男爵位を複数所持しているから出来た。(生まれの身分が低いと、活躍しても特例か王族の鶴の一声がない限り、男爵が子爵になることはまずない)
「じゃ、僕がそこに行って助けを呼んでくるよ!」
「無理だっちゃ、今からじゃ日が暮れる。夜は魔族の時間。危険を犯してまで捜索隊を出すほど領主は私情は挟まないし、人情家でもない」
「でも、君が!」
「騎士になった時から、こういう日が来るのも覚悟はしていただっちゃ。悔いはない」
髪を表裏と弄びながら、瞳の色は沈み唇を噛む。
言葉と表情が一致しない。
「私が死んでもここで引き付けるから、その間に離れる――」
残しておいた最後のミルクキャンディーを口に押し込んだ。
「どう?」
「何をすりゅ――、甘いだっちゃぁ」
驚きから至福の顔へクラスチェンジ。
この前、駄菓子屋の飴くじをトライした戦利品だ。
少ない運で大当たりを引いたのだが、非常食用としてテッシュに包みポーチの底へ封印。
大きめなので頬越しに転がっているのがまる分かりであった。
「テンパっている時は脳に甘い物を投入するのが一番だよ」
飴ちゃん食べんしゃいのノリで、引きつってはいるが、少しでも緊張を解く事に貢献出来たのなら、駄菓子屋の婆ちゃんも本望だろう。
「隊長さん、もっと落ち着こうよ」
「お前、キモがすわっているだっちゃ。もごもご」
「まあね」
でも、足だけマグニチュード8.4。耐震性偽装だったら積み木崩しのように倒壊していただろうか。
「ははっ、面白い奴だっちゃね」
力は無いが両頬が自然と吊り上がる。
「お褒めに預かり光栄です」
一人だったらおしっこチビってたよと、冷や汗をかきながら内心はドキマギしていた。
「でも、騎士として民間人を守るのは責務。残された選択肢は私が囮になるしかないんだっちゃ」
聞き分けのない弟へ諭すように言って聞かせる。
それと平行して、先程より覚悟が定まったのか、ヴァージニアは首にかけているお守りの水晶を握りしめた。
まるで自身に改めて未練を断ち決意を固める儀式としての言葉。




