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窮地に落ちる


 当然ながらその事実を敵に話すつもりはないし、身代わりになっている貴族には悪いがこのままぬか喜びさせておこうと乾いた唇をつぐむ。

 自分にしては随分とドライな判断だと内心驚いているが、ここは下手な三文芝居を演じていた方が後々有利に動く筈と踏んだ。

 問題はここから先、どう行動して良いのか分からないから、頭の中は純白のキャンバス化。

 絵の授業と違い、絵の具を塗りつける行為に躊躇している。


 どちらにしろ、このままみすみす王国の者を見捨てたら騎士道に反するのだ。

 かといってあの兵力を一人で相手にするのは無謀過ぎし、このまま押し黙っていても結果は同じ。

 ということは、……そう、もう答えは出ている。

 打開する方法は今一度ハルトに身を任せて救出するしかない、それがもっとも確実な方法だ。

 しかし、これ以上関係ない一般人を巻き込んで良いのかと良心の呵責があるのも事実で、それが早急に決めたい事柄でも、ヴァージニアの判断をどんどん鈍らしている原因である。

 

 その間にも、


「それより気になっていたのだが、そこの人間は何だ? 敵の生き残りか?」


 バクリュウエイに指を差されると、ヴァージニアの鼓動がピクッと脈を打つ。

 咄嗟にハルトの処まで逃げる事も視野にいれたが、軍馬より遅いが人の足では騎竜の軍団から逃れられる訳もない。

 馬がいれば良かったのだが、いつの間にかその姿を消した愛馬ナポレオン。

 飼い主としては失意に包まれるも内心は安心していた。


「はっ、王国側の騎士です。いかんせん年端もいかぬ女子おなご。誇り高きシュリン様の戦士として躊躇していた次第」

「そうか。確かに女子供をこの手にかけたら後味が悪いな。それに女は次代に繋げる大事な宝だ」

「なら、この場は見逃す事をお許しください」

「好きにするがよい」

「ガキ邪魔だ、何処へなりとも早く立ち去れ!」

「…………感謝する」


 だが言葉とは裏腹に、ヴァージニアはすぐさまハルトと合流して貴族を奪還する腹づもりだった。


 この場を立ち去ろうと後ろを振り向いたヴァージニアの片足が前に出る、「――いや、子供よ、暫し待て」だが、呼び止められた。


「何か?」


 ヴァージニアは振り向かないで尋ねる。


「聞きたい事があったのだ。何、簡単なことだ」

「……………………」

「実はここで私の友であり身内のバクリュウキョウが戦死したのだ。何か心当たりはないだろうか?」

「知らないだっちゃ」

「ならば我軍の文官シャセキが殺されたのは?」

「何の事だっちゃ?」

「私は探しているのだよ。我が友を討った仇をね」

「知らないだっちゃ」


 ヴァージニアはキョウシ達とは打って変わってしらを切る。

 もちろん熊の魔人辺りが言いつける可能性もあったが、ここから離脱しなければなくなったので、知らぬ存ぜぬで押し通すしかない。


「そうか、言わないか。この辺りに人間はもういない。ならばその娘が一番怪しいのは明白だ。それに私には野に放っている影がいるのだよ。お前達の会話も筒抜けだ」

「くそ!」


 ヴァージニアは逃げ切れないと悟り、咄嗟に大きく間合いをとって剣を構えた。


「可能性は潰しておかなければない。キョウシ、ソウダ、その娘を殺せ」

「しかしバクリュウエイ屯長!」

「私の命は絶対だ、殺れ」


「「御意」」

 

 二人は何か言いたげだったが従い拝手した。



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