戦争のやめ方
意図がまだ読めていないが、総司令官が描く思惑の全容が把握出来た時、死亡フラグが立っているヴァージニアはこの戦争から生還可能なのではないかと結論付けた。
無論確証はないし、保証も出来ないが、次のステップへ移る為の仮定としては言い得て妙である。
なら、将として白旗を上げるならどのタイミングなのか?
・劣勢の現段階
兵站も各隊自前のみの今、確かにタイミング的には頃合いである。
しかしだ、ここで降伏してはプライドの高い味方騎士同士で遺恨が残るかもしれない。
それにこれは開戦である。
初戦で腐っても国のシンボルとも言える獅子王騎士団がこのまま降伏すれば、残された国民の士気が下がり、スタンドライオ王国は抵抗なく滅んでしまう。
・全軍壊滅
その先に待っているのは簒奪と略奪しかない未来のみ。
敗者地域は交渉権利も当然だがなく、全財産と全住民の生死与奪権さえも勝者へ握られてしまう。
しかも異文化、異種族が過去どれだけ残虐無道な事をしでかしたかは、ヴァイキングやモンゴル帝国や大航海時代など地球の人類史を辿れば明白だ。
徳のある名将なら保証する事もあるかもしれないがそれは希、待っているのは奴隷か交渉の為の人質だろう。
・劣勢を引っくり返す
それを考えると最初の三択へと戻ってしまう。
しかし、ヴァン公爵が降伏するのは前提で、相手が喉から手を出す程の交渉材料を提示するとまた違う展開になる。
例えばスタンドライオ王国の地図、例えば国宝クラスの魔導具、例えば農法と商法技術、ただ領土拡大させるだけの戦争国家ではどれも輝かしい宝石だろう。
凛はヴァン公爵が狙っているのはそこだと指摘。
でも、それだと職業軍人的であり、ハルトはそれだけじゃ足りないと感じている。
戦争を政治と考えてる者もいれば、ただの侵略行為と考えている者もいるし、大義と信じている者もいる。
見極めは戦争で重要なファクター。
だからハルトとしてはヴァージニアを死地が待っているあの場所へ行かせたくなかった。
驃騎将軍バクリュウドが十万を率いて待っている。
逃げるのを恥とする猪騎士様の事だ、喜んで立ち向かっていくだろう。
それに、もしヴァン公爵が交渉するのならマイナス要因にもなりかねないのだ。
一つだけ確証はないけど、僕らには一縷の望みはある、ヴァン公爵はヒントを残してくれたと、ハルトは難解なクロスワードのピースを思い付くかのような心持ちだった。
そう、前の事件当事者はある事が頭にあった。
あの騎士団を惑わせた石像の鶴翼の陣。
基本的過ぎるVの字型だ。
待ち受けている戦いには不向き、挟まれるのが分かって突撃する馬鹿はそうはいない。
ハルトはこう思っていた。
あれはヴァン公爵のメッセージだと。
即ち、あの陣形は矢印であの方角に何かがあると…………。
あれはシャセキが仕掛けたものだが、男爵から伝授されたものだとたまたま聴こえていた。
もしも他の派閥に属していて、結果、軍を裏切った男爵なら信用出来る。




