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ネーミングセンス


「後、戦闘中の使用制限もインフィニティになっていてるね。僕達の運用次第ではかなり戦いを有利に進められる」

『うん…………でも、ジャストモーメント、ちょっと待って。これもあまりにも都合良すぎる。何かトラップがあるかもしれないし、全部含めてここは慎重に事を運ぼうよ』


 凛も流石に言葉を選んでいる様子。

 都合の良いことには契約書を隅々までチェックすると同じぐらい裏を疑う凛に、ハルトは頼りになる相棒だと改めて確信する。

 

「了解、当然の判断だね。じゃ、取り敢えず今まで通りヴァニシングライダーのシステムで物を考えるよ」

『そうして。この問題は今はフリーズ、凍結が妥当だよ。副作用のような巧妙なトラップが、何処にまだ隠れているか分からないからね。それだけ、限定解除は怖すぎる』


 スキルのステータスにはインフィニティを表す∞が、本来なら回数を表示してある所に王者の如く鎮座していた。

 この無限を表すゲーマーにとっては尊い数字に、見れば見るほど安心と不安が編み物のように複雑に折り混ざる。


「まっ、ぶっつけ本番は避けた方がいいか。食糧難状態で蜃気楼のオアシスみたいなものだし」

『例えは微妙だけとそういうこと』


 捉えようによってはさながらデスゲーム。

 ハルトは一見普通のステータス画面に、遊戯では絶対味わえない心の底を這いずっている恐怖に襲われた。

 

『それにライドオン状態だって万能じゃない。ヴァージニアちゃんとキスしないとハッチが開かないし、意識が同調していないと上手くコントロール出来ない。こんな致命的不安要素あるのに――――』

「長瀬さん待った。話の腰を折る事を言ってごめん。何、その、ライドオン状態って?」


 凛がキス辺りで声が何故か強ばって来たので、怒りから話がまた長くなる事を予想したハルトは、気になる事へ強引にドリフトなみのシフトチェンジ。


『ふふん、いい質問だねハルト君。格好いい名称はないかなぁと私なりに考えていたんだよ。アニメでよくある主人公や敵のパワーアップ形態』

「第二形態とかアクトツーとか?」

『そうそう、そんなノリ』


 博士宜しく教え子ハルトへとノリノリにレクチャー。

 本人はハルトが誤魔化した事に気付いていないのは実に僥倖だ。


「でも、ネーミングがカッコ悪い」

『むう、じゃ、何か対案あるの?』

「スーパーモードとか、ゴッドスタイルとか」

『却下。センスがないしダサすぎる』


 と、言いつつもスピーカーの向こうから、軽快なキーボードの音が聴こえてくる。

 お互いアクションアニメが好きなので、凛が琴線に触れるのも詮無きことかな。


「え? 長瀬さん程音痴じゃないけど」

『なにお!』


 今度は一触即発。

 オタクは己の信念を絶対曲げない。

 どんなに正論叩き込まれようが、理論武装しようが何がなんでも曲げないのだ。

 なので意見の相違は日常茶飯事である。


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