天才ゲーマー神ハルトの憂鬱
売りは無駄に驚異の360度高速回転球体型コックピット筐体。
これによりどんな激しい位置転換も可能だ。
オモチャを逸脱したその性能は、来年度より軍学校のシュミレーターに採用されるまでになる。
コックピットの内部も本格的で、360度マルチスクリーン、中央にハンドル、左右に操縦レバー、下には三種類のペダル、左横には二種類のギヤを完備。
だが、全て使うのではなく、プレーヤーが選択した機体に合わせて操縦方法が変わるので、これだけ色々と付いているのだ。
ちなみにこの高校生は滅法変わり者なので、わざわざ設定を変更、全てを使用するゲキムズ変態プレイを楽しんでいる。
もちろん動画サイトにアップして金を稼いでいる常連だ。
今や、朝の国営放送に放送される程、世界中のEゲーム界や大手動画サイトから変態ゲーマーとして注目されてる。
そんなハルトは、BGM流れる巨大な回転募金箱内で、大事な兵糧とも言うべき通帳の残高に、世の中のシステムに恨みを込めながら、籠城しても降伏出来ない武将の心情を味わっていた。
残高 ¥200円
幾ら眼力を飛ばしても、200円が2000円または20000円に変貌する事はなかった。
後悔はしていないが、全ての幸福を吐き出す勢いで大きく嘆息をつく。
手に握っているのはなけなしの500円一枚。
(モヤシがあれば乗りきれる。凄いぞモヤシ!)
ラテン系楽観主義なのかポジティブ。
頭の中で連日カーニバルでも開かれていそうだ。
脳内表計算ソフトには次の援助まで残り5日のスケジュールが既に出来上がっていた。
朝:モヤシサラダと水→昼:クラスメートの食べ残し→夜:モヤシの踊り食いと水。
かなりアバウトである。
これを後5日間続ければ行けると、オカルトではなく、アトランティス大陸が実在したと本気で思ってるぐらい当人は疑ってなかった。
ガスと電気が止められているのでライフラインは水道のみ。
ちなみに唯一の調味料の塩は、夜な夜な枕元に現れる孤独死した前家主のお清め用に当てていた。
しかしながら、人生とは常にシナリオ通りにはいかないもの。
「こ、これは!?」
緊急イベントのテロップがメール音、『親分ていへんでぃ!』と共にスマホに流れる。
このロボゲームのもうひとつの売りが、短時間の限定ミッションだ。
クリアすると超レアパーツをゲットする事が出来る。
……と、おまけに水道停止のお知らせ。
ハルトはこの一回500円の悪魔の中で、頭を抱える、葛藤する、身悶えする、奇声を上げる、店員に怒られる。
されど諦めきれないチャレンジャーは、無謀にも脳内表計算を再び稼働。
朝:公園の水と塩→昼:土下座してクラスメートの食べ残し多め→夜:金縛りで行動不能→エンドレス
(行けるぅぅ!)いけません。