信頼とは砂上の楼閣
少女は来る。
さながら二足歩行の兵隊ブリキ人形。
少女は来る
喩えれば時計というシステムを形成する長い針と短い針。
まるでシャーマンまたはイタコ、トランス状態、目は虚ろの少女は感情を消して、やってしまった主人公の元へと少女は来る。
素足なので小石が散乱している場所ではいかんせんバランスがとりにくかった。
たどたどしいおぼつかない足取りで、歩く度にカラカラと物体同士は接触して鈍い音を奏でる。
ジャイロが欲しいところだが、それではドジっ子がこの世から淘汰されてしまうので、この至極不器用な娘だけでもこのままでいてくれと不謹慎ながらハルトは切に願った。
向かってくる方角は真正面。
ヴァージニアは体を一切合切隠さないのでほとんどオープンになっていた。
赤みを帯びた白く透けた肌は日光を受けて所々テカって見える。
腹部は腹筋が確認しにくい程度だが引き締まっていて、ヘソを中心に縦ラインが刻まれていた。
胸部は長い髪に隠れていて確認はとれないが、その出で立ちは聖霊のように清らかで何処まで澄みきっている。
その合間にも確実に歩数を進めて、とうとう至近距離まで迫ってくるヴァージニア。
ゲーム人間なハルトは、マニュアルと説明書ががないので、この場合どうすれば良いのか分からないと、パニックになりしどろもどろする。
脳内ゲームライブラリーを高速検索をかけても残念ながらヒットはゼロ件だ。
ゲーマーハルトが提唱する、人生は全てゲーム経験で補える定説は脆くも崩れ去った。
「これは事故だよ。事故。見たくて見た訳じゃないよ!」
「言いたいことはそれだけだっちゃか?」
「凹凸がないから体が軽そうだね――ぶはぁ!」
目にも止まらない高速ビンタ。
首が曲がって元の位置に戻らない。
そんな見苦しい一般俗物へヴァージニアが一言、「……………………神 ハルト、お前まで私の信頼を裏切るのか?」その声は何処までも無機質で、その瞳には透明な雫が常駐していた。
騎士であろうと嫁入り前の貴族の娘が、人前で肌を晒すのは最大の禁忌。
一族の恥さらしだった。
ハルトが拾った帽子をおもむろに引ったくると、失望した少女は力無く今来た経路を再び辿る。
「ヴァージニアさんごめん!」
だが全てが遅い。
傷心の少女が呼び掛けに応じる事はなかった。
信頼とは砂上の楼閣、雪の彫刻。
制作するのは手間がかかるが、壊れるのは一瞬である。