ヘタレハルトの挽歌
「でもさ、一人になりたい時もあるでしょ? 僕もそこまで無神経じゃないよ」
『え? え? どの口が言っているのかな? あははははは!』
「…………心外だ」
ギャグじゃないんだけどと、意外に傷つきやすいティーンエイジャー。
切り替える為に顔を水面につけじゃぶじゃぶ洗うと、炎症を起こしている部分か冷たくて気持ち良かった。
『貴君は日頃の私に対する扱いを入念にリフレインしてから、良くシーンを吟味したしかる後、言葉を選定してから述べたまえ』
「長瀬さんは親友でしょう。でも、ヴァージニアさんは知り合って三日経ってないんだよ。そこまで何でもかんでもプライベートには踏み込まれたくない筈だよ」
凛の言う事には確かに思い当たる節は多々あるが、色々と厄介な展開になるので、今更ながらここは常識人の振りをした。
『確かに一理あるね。それにギャルゲー主人公並に天然ジゴロをハルちゃんに演じろって言っても、ハンデありの状態で世界ランカーを相手に無双するより遥かに難易度が高いか。要するにヘタレ』
「…………何かトゲがある言い方が気になるけど、幾らけしかけても僕は行動へ移す気は更々ないよ。ヘタレ大いに結構だね」
神 ハルトは基本空気が読めない部類に入るが、何故か時たまこのように気を回す事がある。
それは自分の中である程度、踏み入っては駄目な領域へ境界線を引いているからに他ならない。
人間多かれ少なかれ備わっている感性で、性格にもよるが嫌われたくない時、多く見られる傾向だ。
要するに纏めると、ヴァージニアと運命共同体の他に友達にもなりたいという、何とも贅沢で欲張りな思想が心を占めていたが、それでなくてもゲーマーは基本的にコミュニケーションが苦手なので、異性どころか同性のダチ公でさえ作るのが困難な作業。
しかも立ち向かっている相手は強気ツンデレ属性だ。
仲良くなる事が如何に無理ゲーなイベントかは、当の本人が一番理解している。
なので嫌われたくないから、これ以上は立ち入る事が出来ず、結果、下着売り場に付き添った弟の様に突っ立っているしか選択肢はなかった。
『せめて覗きをやるぐらいの度胸があれば、ハルちゃんも友達一杯いたのにね』
「…………もし、長瀬さんのシャワーをマジマジと覗いていたら?」
『全裸にひん剥いて写メ撮ってSNSに投稿して通報するよん』
「ええ!? それはどっちが犯人か分からない!」
即答だった。
声の周波に乱れがない。
真顔だったのは否めないだろう。
何時の世も女は魔物、男は敵わないのである。