再びエンディング(中盤ラスト)
ENDマークを凝視するハルト。
あたかも新作トレーディングカードの前で唸っている子供、もしくは飲み屋でカロリー制限されているサラリーマンが究極の選択を迫られているシーンを彷彿させる。
しかしながら結局、「ポチっとな」往年の恥ずかしくて使いそうもない死語と共に、ゲーム豆で固くなっている皮膚はオートで導かれるようにタッチパネル液晶へと触れる。
銀行だったらいちいち指紋認証エラーで焦るし、コインゲームだとコイン認識が曖昧で大損したとか、大型のディスプレイを見る度にトラウマがプレイバックした。
男とは好奇心と欲望には勝てない生き物。
まして、ニンジンがぶら下がった馬状態で、ハルトが引き下がる訳がなかった。
だからだ。
ソシャゲー業界は長い間、可愛い女の子の絵に誘われた課金ソルジャーの阿鼻叫喚と一緒に春を維持出来ている。
画面は全て漆黒に包まれて、またエンドロールが矢継ぎ早に流れていった。
だが、その中に自分の名前やヴァージニアが記すされていた事は見逃さない。
そのままエピローグが厳かに流れる。
――その後の世界
危機を再び脱したヴァージニアは何も告げず去っていた薄情で軽薄なゴッドハルトに人知れず別れを告げ、愛馬と共にヴァン公爵を探す。
幾つもの戦闘を切り抜けながら目的地へ着くがそこは何もなかった。
途方に暮れるヴァージニアはそれでもそれでも諦めず辺りを捜索。
しかし、そこへバクリュウド本隊と遭遇する。
決死の覚悟で戦うが10万の大軍相手にたった一人で勝てる訳もなかった。
しかし、死に顔は無念の死に相応しくない満足したものだったという。
後にある魔族の将が語る。
少女は最後までがむしゃらに我らに反抗した。
不可能に立ち向かった様は鬼神や狂戦士の如く。
その壮絶な最期は魔王国の歴史に刻まれるであろうと。
ヴァージニアは逃げたゴットハルトを恨まず憎まず感謝していた。
臆病者のように逃げたが、生き残った事を何より最期まで喜んでいた。
忌野際、「父様、師匠、みんな、私は頑張れたのかな……? ハルトに会いたいよ会いたいよ…………」と、笑顔を浮かべながら天国へ召されたのだった。
このままスタート画面へ戻りますか? それともエンディングをキャンセルしますか?
無機質に表示されるスタートへ戻る選択画面。
ディスプレイには元の世界へ送還とも取れる戻る選択と、キャンセルして物語を続行するかの選択が再び提示された。
………………………のわあああああああ! 僕の馬鹿! 僕の馬鹿! 何で見放したの!?
椅子の背もたれへ、ヘッドバットヘッドバット。
あくまでも放棄した場合の末路だが、それでも心の中で自分を責める。
「…………このバッドエンド。何回見ても良いものじゃない、心臓に悪いよ。ヴァン公爵がいるし、もしかしてもう僕はいらないかなと思ったけど、そんなに甘くないか」
ハルトはそう独りごちると、ゲームと現実がごっちゃにミックスした感情でキャンセルを実行した。