ヴァン公爵の所在
1日遅れてますので、何処かで埋め合わせします。
「ヴァージニアさん、ヴァン公爵が何処にいるか心当たりはないの? 些細な事でも良いよ」
『ヴァン公爵は雲の上の存在。かたや団長にして王の補佐、かたや田舎男爵の娘じゃ接点があるわけがないだっちゃ』
そう言いながら、野草の花を1輪盛り上がった土の上へ添える。
敵のほとんどは全て無慈悲なカウンターで灰に帰したが、最後に残った男爵の遺体はそのままにするわけにもいかず埋葬。
魂は敵でも体は父親のもの、無下にはできない。
「じゃ、昔の部下だったゴスロ伯爵からは何か聞いてないの?」
『いいや、何も』
聞き方を変えてみるが結果は同じ。
可愛い顔がイチニイチニと左右へ移動。
『普段は一切口に出さないし、師匠がお酒入ると語り出す武勇伝にも、わざと抽象的に表現していたから具体的な人物像や何処で何をしていたかまでは分からないだっちゃよ』
「ヴァージニアさんの友人も知らないの?」
『…………知り合いから聞くのは噂ばかりだ』
友人はNGワードだったらしく、何か言いたげにヴァージニアは眉間へシワを寄せる。
「流石に友達にも分からないかな」
『……………だっちゃ』
段々と頬が膨らむがハルトは気付かない。
「もしかしてヴァージニアさん、本当に友達が――――」
『これ以上追求したらお前もここに埋めてやるっちゃよ。墓標名は変態が良いだっちゃか?』
優しく微笑みながら言葉を遮るが、目が笑ってなかった。
またヴァージニアの禁句が増る。
乙女は難しいお年頃。
「お嬢様と共に最期まで戦う所存! サー!」
怖くて思わず敬語、勿論敬礼も忘れない。
『公爵は用心深いから、石橋を叩いて渡るタイプだとか、見知った人間の前にしか姿を現さないとか、料理は自分で調理するとか噂されているだっちゃ。師匠が言うには本当に部下に叩かした事もあるという』
「それは凄いけど、団長としては当然の行いなのでは?」
『争いが尽きない貴族同士の足の引っ張り合いも、何故かヴァン公爵だけは一切噂を聞かないんだっちゃ』
「随分用心深い人だな。それは事前の段階で間引いている可能性があるね」
どの世界でも権力闘争は日常茶飯事。
ホーキンス侯爵も政敵である枢機卿の妨害に手を焼いていたと言っていた。
ハルトはリアルの智将に断然興味を持つ。
本の中の軍師がリアルにいる。
それだけで多感な成長期を走っている少年としては、心を踊らされるのに十分ではなかろうか。