最後の仕事
相手は魔族。
即ち紛うことなき敵。
RPGならいざ知らず、アクションゲームなら一直線に向かってくるのはただのスコア稼ぎ。
十中八九、雑魚でしかない。
しかし、イベントとなったらまたニュアンスが違ってくる。
クリエイターサイドとしてはそんな無駄な事はしない。
必ず起・承・転・結の転または序・破・急の急を、プレイヤー側の阿鼻叫喚する姿を糧に用意しているだろう。
なら、本物の戦士ならどうなのだろうか?
西洋世界では金で動く傭兵が戦いの主役だったので、残念ながら忠誠心という王侯貴族に都合のよい概念は重きを置かなかった。
中華では仁・義・礼・智・信、総じて五常という思想はあったが、それなら帝位簒奪または帝位禅譲などという不届き千万な言葉は生まれてこない。
戦いに殉ずる事を良しとしないで、生き残る事を第一とする。
だから、負けっぱなしだった漢の劉邦は、たった1回の勝ちで前後合わせて長い間大陸を支配する初代皇帝になれた。
それならシュレリア男爵は先人に見習い、上司として必ずやっておくべき使命がある。
戦う気を失せた他の兵士を逃す為にも、白旗立てて降伏すべき状況下なのだ。
だから、豪快な容姿と異なりシャープな思考ロジックが持ち味なのに、全く真逆な事を起こしている男爵の裏には何かがあると読み取れる。
そして何かが足りなかった。
透明になってて思い出せないが、一番大事なパズルのピースを何処かへ無くした気分を味わう。
『お前が動かないのなら私にやらせろだっちゃ!』
「もうちょっとだけ待ってて!? もう少しで何かが掴めそうなんだ!」
『待てないだっちゃ!』
それでもハルトはヴァージニアを無視して馬鹿正直に順序立てて推測。
更に演繹法と帰納法を駆使して可能性を突き詰めて、遂にあることに気付く。
「――――ヴァージニアさん! 後ろの穴の中に敵がいる!」
『何だと!?』
だが、一足遅かった。
降り向け様に、「――間に合わない!」ヴァージニア目掛けて背後の塹壕から襲ってくる槍。
予想外の出来事にハルトは反応が遅れる。
姿を掻き消すカメレオン特有のステルスで隠れていたのだ。
しかもレーダーでは穴の中までは反応しない。
これが正体だった。
「見過ごした! レーダーでは穴の中の敵を感知出来なかったんだ!」
『…………やられるだっちゃ!』
『口封じはさせん! うおおお!』
シュレリア男爵は堰を切ったように突進、『――え!?』咄嗟にヴァージニアへ飛び込み蹴り飛ばす。
一瞬の出来事。
そして、ヴァージニアの父は身代わりに貫かれた。