親分ていへんでぃ!
その間にも徐々に迫っている男爵。
突撃の催促をするヴァージニア。
選択を迫られるハルト。
三者三様。
提唱者としての手前、ヴァージニアにああは言ったものの、もはや猶予がないのは自身も分かっている事だ。
敵の心を折ったと確信して行った行動が逆に裏目に出たのか。
心境としては王手した駒に特攻された心持ち。
窮鼠猫を噛むの文面が脳裏によぎった。
『変態! 早く決断しろだっちゃぁ!』
「でも、僕は…………」
『“騎士に敗北は許されない。殺されるなら最期まで悪足掻きして死ね” 常に父様が掲げていた持論だっちゃ。私はその教えを誇りに騎士になった。なら、同じ記憶を持つ偽者も同じ行動へ移すのは明白だっちゃよ』
「…………くそ、やるしかないのか」
――――いきなり、『親分ていへんでぃ!』とスマホから流れる明らかに場違いな音声。
ハルトが諦めてギアに手を掛けた時、メール音と共に長瀬凛からメールが届いた。
送ってきた文面は短く、
『ハルちゃん、この意味を考えて』
このタイミングで謎のメッセージ。
ミステリー小説並みの難解なワードがハルトの眼に否応なく焼き付いた。
それよりこんな大変な時、凛は何故ダイレクトにスマホへ掛けてこないのかというと、
・緊急時でもヴァージニアとは不干渉。
・悟られないようにサポート。
それが凛とハルトの間で取り決めた契約。
なので、場合によっては意地悪にもおざなりにも取れるこれを解読する必要があった。
取り敢えず回答者は目的の視界をクリアにする意味も含めて、ヴァージニアによる罵倒をBGMに気持ちの整頓を試みる。
長瀬さんは何を伝えたいんだ?
意味を考えろって言われても、攻略サイトやヒント無しで今日のゲーマーはノーコンテニューでクリアなんてできやしない。
大体、意味が分からない。
このメッセージは何に対して指しているんだ?
……でも、僕は答えを出さなければならないんだ。
ここが大詰め、大阪夏の陣だね。
などと大袈裟に仰々しい事をダラダラと述べているが、ハルトは答えはもう既に出ていた。
というか、それしかイメージが湧いてこない。
…………もしかして男爵が近づいてきたのには意味があると言うことなのかな。
長瀬さんがゲームに関しては、的外れなアドバイスをした事は今まで一度もない。
これをゲームと例えるのはまだ論議の余地があるが、少なくとも今する議題じゃないしと、ある程度確信出来たところで、では何が狙いなのかと新たな疑問が発生。
そしてそれが本題だ。