降伏勧告
「ありがとうヴァージニアさん」
『ふん!』
意地っ張りな騎士様は豪快に鼻を鳴らし嫌々従ったと体裁をとった。
そのまま目を閉じ、深く息を吸って吐いて吸って吐いて、気持ちを整えるように繰り返し、怒りで硬直した心を解きほぐす。
「もし、まだ男爵達が戦うのであれば、今度こそ決着を着けよう」
『それはお前に託す。ただし偽物のとどめは私がつけるだっちゃ』
「………………分かった」
勿論、そんなつもりは毛頭なかった。
嘘も方便は便利なことわざ。
『投降しろ偽者。今なら生き残った奴らも命を取らないだっちゃ』
『何の冗談だ?』
呆けていたシュレリア男爵は、精一杯の威嚇のつもりなのだろうか、折れた利き腕の代わりに左で落とした剣を拾った。
『…………ぐおおお……………………………』
呻くと同時に、重量の掟に逆らった左腕に重みという制裁が襲い掛かる。
本来の用途、両手剣を片手で制御するのだ、鍛え抜かれた腕に当然血管が浮き出た。
勝負はもう着いている。
士気を失った軍はただの群へと成り下がるのだ。
が、歴戦の戦士は一人、形相を変えず、ただ、眼は戦った敵へ見据える。
遮る物が何もない平原の風は蓄えた自慢の髭を揺らした。
そんなシュレリア男爵へ戦った者としてハルトは敬意を表する。
倒すべき敵だが、金髪の騎士の親にして、王国最強騎士に相応しい振る舞いだった。
ハルトが憧れている三國志武将に引けをとらない厳かさがそこにある。
『お前は敵だが体は紛れもなく私の父の物だ。これ以上傷付けたくはない』
『この期に及んで何を甘いことを……』
本音を話す。
これがヴァージニア・ウィル・ソードの生き方。
淀みもなく不協和音もない澄んだ心、ハルトの助力もあったがこの答えを導きだした。
『私はお前が憎い憎い憎い憎い憎い! 師匠と父様を殺したからだ!』
ゴスロ伯爵はバクリュウキョウが殺したのだが、ヴァージニアは魔族のカテゴリーとして見ているから、この際どうでも良かった。
『ならば、何を躊躇うか? 武人は着いた勝負の生き恥を嫌うものと教えたはず』
『でも、心の奥底でそれを拒絶しているだっちゃ。偽りでも共に過ごした日々は本物。紛れもなく父様だったちゃよ』
『戯けが。馬鹿も休み休み言え。だから貴様劣等騎士なのだ』
男爵は仮の娘の思いを拒絶するかのように大剣を掲げた。
ハルトは緊張しながら再び操縦桿へ手を置き、終わりを祈りながら有事に備える。