カウンタースキル
それどころか今まで見下されていた相手に高く評価されて、気分が良かったりムカムカしたりする様をハルトはキャラのコンディション画面を通して何となくだが確認出来た。
『複雑だっちゃ』
「だね。認めて貰うのは嬉しいけど、本当は僕が操作しているからヴァージニアさんの能力とはまた違う」
シュレリア男爵の動きに警戒しながら、次の一手を視野に入れて足を動かす。
『…………いや、変態の力は総じて言えばもう私の力だっちゃ。だからそうじゃない。言いたいのは親を名乗っていながら心の奥底で子供を侮っていた事に対してだ』
「それが出来なかったのは日頃から能力を決めつけていた男爵の驕りに過ぎないよ。本当のシュレリア男爵なら娘の将来性込みで信じてくれていた筈だよ。他人の力を自身の物と思い込んでいる無能でも…………」
『はははは………………』
「はははは………………」
くだらない意地と意地のぶつかり合い。
双方目が笑ってなかった。
しかし、一人ではけしてこうはならなかったであろう。
今でも一人でうち震えているに違いない。
それだけ互いに影響を与えているのだ。
だが、残念ながらその事に気付くのはずっと後の事。
これはまだ二人の出会いの物語だ。
それに漠然としているが、どれだけ魔王軍がバクリュウキョウの能力に信頼を置いていたかハルトは改めて把握した。
もしかしてあのリザードマンって、三國志に例えると王平とか周倉とか太史慈クラスなのでは…………、それなら性能とか状況に差があっても僕があんなに苦戦する筈がないと、ゲーマーらしい答えを導き出す。
ハルトはわざと暫し俯いている素振りをしていると、
『――ヴァージニアよ、さあ、返答は如何に?』
問い詰めると同時にシュレリア男爵が行動を起こした。
ヴァージニア目掛けて小刀を投げ、その隙に一気に間合いを詰める作戦。
しかし、すぐに動きが止まる。
それは……、
自動スキル『カウンター』
スキル『倍返し』
ヴァージニアに発動。
『っ! 何だと?』
『無駄だっちゃよ』
ヴァージニアは腕が力無くぶらりと垂れ下がる父だった者の哀れな姿を確認しながら、『生物はいずれ死ぬ。それが早いか遅いかだっちゃ』肯定とも否定とも取れる意味深な言葉使い方をした。
石礫による目にもつかない速さのカウンター、いとも容易く歴戦の戦士の片腕を折る。
シュレリア男爵は情報を聞き出す為に高い代償を支払ったと言っていいだろう。