最強を討った者の正体
「ヴァージニアさんは恵まれているんだよ。好きな事を出来る環境が全て整っているのだから。なら後は人に馬鹿にされようが努力を積み重ねたらいつかシュレリア男爵のような剣豪にだってなれるよ」
一般的には凄く良い事を語っているのだが、騎士のヴァージニアとゲーマーのハルトではスケールがネズミとクジラぐらい差があるので罪悪感も多少込み上げてきた。
『ははは、お前から上から目線でほざかれるとむかつくが、好きは才能を凌駕するは気に入っただっちゃ』
「へへへやっと笑った」
『ぬかせ』
ここで漸く笑顔。
一瞬だが一輪のひまわりが咲いた。
しかし、その場違いで不器用な笑みに、相手からは悪霊が乗り移った、または神が宿ったと恐怖が脳裏をよぎるかもしれない。
そう、敵の動揺も剣を通して看過または見抜いたのだ。
だからだ、恐れをなした魔物達は、
『――死ネ!』
『止めろ! お前らの勝てる相手じゃない!』
死角から狙いを定め、槍を構え五匹編成で特攻を仕掛ける。
男爵は仲間達に制止を促すが全てが遅かった。
『お前ら、草食動物みたいな可愛い顔に騙されてはいけないだっちゃよ!』
「そう、このまま行けば待っているのは蟻地獄やウツボカズラと同じ運命だという事を知れ」
『誰がウツボカズラだっちゃ!? 私をあんな植物系モンスターと一緒にするな!』
どうやらこの世界ではウツボカズラはモンスターだとハルトは初めて知る。
この様子だとラフレシアや蝿取草も怪しい。
「「「ぎゃああああア!」」」
自動スキル『貫通力アップ』
スキル『全体攻撃』
モニターにテロップが流れると同時だった。
突かれる運命だったかのように、予めセットしておいたスキルの効果でゴブリン達を吸い寄せて瞬殺。
「僕達のターゲットはシュレリア男爵カッコ偽者カッコ閉じのみ、でも、」
『仕掛けて来たら私も容赦しないだっちゃよ』
と、少女騎士は興奮を抑えながら鼻を鳴らす。
『………………』
対して、本来ならここで怒り狂うものだが、男爵は冷静に相手を見据えていた。
髭をいじりながらヴァージニア一点を。
その様子はまるで考えを纏めている名探偵に見えなくもない。
『そういうことか……。これで納得がいった。魔王軍最強の極みと名高いバクリュウキョウを討ったのはヴァージニア、お前なのか?』
遂に気付かれる。
だが、遅いぐらいだ。
「やっぱり気付くよね。これはマズイ。全員口封じしなければならなくなった……」
『まぁ、ここまで派手にやらかしたら今更言い繕っても無駄だっちゃ』
ヴァージニアは小声で呟く。
懸念していた事がとうとう明るみになった。
バクリュウキョウを討ったのは、ゴスロ伯ではなく、ヴァージニア・ウィル・ソードだという事に。